出張旅費規定とは
出張旅費規定とは、会社の役員や従業員を対象に、業務で出張する際の旅費の精算等について社内規定としてルール化し明確にしておくものです。
業務で出張する際の旅費について、そもそも利用できる交通手段や、シート種別などをルール化する他、その精算方法をルール化することが一般的です。
また、業務で出張する際に、旅費の精算だけでなく、旅費とは別に日当の支給をルールとして定めておくことができます。
日当を決めておくことの意味
出張旅費規定で、日当の支給をルールとして明確にしておくと、税務上メリットが発生します。
会社側にとってのメリット
まず、会社側にとって、適切な出張旅費規定に沿って支給した日当であれば、従業員給与や役員報酬の扱いではなく、あくまでも出張旅費の一部という扱いとできます。
社会保険料の会社負担分が減る
その結果、会社側では、この日当が給与でない以上、社会保険料の会社負担分が発生しないことになります。
法人税の計算上、役員への日当も損金算入ができる
役員への日当であっても、役員報酬の扱いでなく出張旅費の一部の扱いとなれば、法人税の計算において損金算入ができます(従業員への日当であれば給与扱いになっても損金算入自体は可能)。
役員報酬自体には損金算入できる場合があるのですが、定期同額給与や事前確定届出給与などの特定の要件を満たす場合に限定されるため、出張時の日当で要件を満たすのは厳しいためです。(参考 -「役員報酬の支払い方や水準を決める際の税務上のポイント」)
消費税の仕入税額控除ができる
また、国内出張にかかる日当であれば、従業員等はインボイス制度登録事業者ではないですが、消費税の課税仕入れとして扱えます。(参考 -「インボイス制度〜開始後の影響と概要のおさらい、今後の対応のヒント」)
つまり、インボイス制度のもとで、一定の事項を記載した帳簿のみの保存により仕入税額控除が認められます。
注意点
これらは、規定されている日当の水準や要件が同業種の平均的な水準と比較しておかしくないものであるなど(後述)、出張旅費規定が適切なものである必要があります。但し、そこをクリアすれば大きなメリットとなります。
従業員や役員にとってのメリット
役員や従業員側にとっても、適切な出張旅費規定に沿った日当は給与でなく、あくまでも出張旅費の精算の一部という扱いとなります。このため、日当の支給に対して所得税が発生することはありませんし、社会保険料の自己負担分も発生しません。
例えば、一泊で出張した際の日当が2万円で、月に5回の出張をしている場合には、1ヶ月で2万円✖️5回=10万円。1年間で120万円となります。
この120万円について給与のように所得税を源泉徴収されたり、社会保険料が控除されることなく、手取り額へ追加して受け取ることができます。
宿泊費や交通費のルールを決めておく意味
出張時に宿泊するホテルの選択の基準となる
不公平感が生じることを避ける
出張旅費規定では、宿泊費のルールを決めておくことで、出張時に宿泊するホテルや居室の選択が人やタイミングによってバラバラになり、従業員や役員間で不公平感が生じることを避けることができます。
例えば、従業員が格安のホテルでいつも出張に行っているのに、役員があまりにも高額なホテルを使っていて、その根拠が曖昧だったり、格差が常軌を逸していたら、不満が広がることにもなります。
また、曖昧にしておくことで、想定外に高額な宿泊代の請求をされたら、会社としても困ります。
このため、出張時の宿泊費の上限を出張旅費規定で明確にしておくことに意味があります。
職階等で差をつけることは現実的
もちろん、社会通念上も、新入社員と役員の間で出張時に宿泊するホテル居室グレードが異なることはある程度は一般的と考えられています。
例えば職階によって、宿泊費の上限を変えたルールとしておくことも合理的と考えられます。
あまりに職階による金額レベルの乖離が大きすぎて同業種の一般的な水準と乖離すれば問題ですが、そうでなければ規定として明文化しておくことで、運用すれば問題ないでしょう。
移動時の特急料金等や座席グレード選択の基準となる
同様に、例えば、新幹線や特急列車のグリーン車を使えるかどうか、飛行機でビジネスクラスなのか、エコノミークラスの座席のみなのか、なども、出張旅費規定で、職階別にルール化しておくことが合理的です。
ここで、社会通念上、一般的と考えられるレベルからあまりに乖離して、役員のみを優遇するような度合いが強すぎると、差額分は実質的に役員報酬と受け取られるリスクが高まります。
その点には注意が必要ですが、同業種の一般的な水準と比較して、おかしくない水準で設定しておけば、税務上も問題となりにくく、社内での説明上も納得感を得られやすいものとなるでしょう。
規定で基準を決めておくことで税務署へ合理性を示しやすくなる
調査官はどのような目線で調査をするか
税務調査官は、出張旅費とされている内容が、実態は給与ではないか?という視点で疑念をもって確認をしてくるかもしれません。
この際、出張旅費として精算されている宿泊費や交通費等が出張旅費規定に沿って適切に精算されているのか?・・・という点も、その前提として確認してくる可能性があります。
出張旅費でなく給与や役員報酬と認定されるリスク
・例えば、役員が出張時に高額なホテルや飛行機の高額なシートを使用し、出張旅費規定で示されている上限を超えていたら・・・
・または、出張旅費規定には沿っているが、出張旅費規定自体の宿泊費等の上限が同業種の一般的な水準よりも著しく高額であったら・・・
税務調査官が、これらを出張旅費に該当せず、実質的な給与・報酬だと指摘をしてくる可能性が高くなります。
役員報酬は損金算入を否認されやすい
特に、追加の従業員給与でなく役員報酬と認定される場合は法人税の計算において損金算入を否認される可能性が高いです。
なぜなら、役員報酬として損金算入できる定期同額給与や事前確定届出給与の要件を、想定外に発生する役員報酬が満たすことが難しいためです。(参考 -「役員報酬の支払い方や水準を決める際の税務上のポイント」)
注意したいポイント
ですので、以下の点を注意したいです。
・ただ出張旅費規定で決めてさえいれば良いということではない
・規定で定めた宿泊費等の水準自体が同業種の水準と比較しておかしくないものであること
・その上で、規定の通りに運用をする
これらで、税務署へ出張旅費の処理について合理性を示しやすくなるでしょう。
一定の旅費の精算額を定額にすることもできる
新幹線や飛行機代の旅費を標準化して定額で行う
さらに出張旅費規定では、上記の日当に留まらず、飛行機代や新幹線代などの旅費については、実費精算以外のルールを作る余地もあると考えられます。
日当と違い、旅費自体については実額で精算することがよく見受けられますが、一定の性質の旅費については、精算額をあらかじめ定額で決めておくこともできます。
例えば、東京→新大阪の新幹線代の精算額について実額精算とせずに、1万6千円と定めておくような定め方が考えられます。ある程度標準化しやすく、その妥当性を主張しやすいものです。
従業員側と経理側の両方の効率化
こうすることで、実際に出張した従業員は、実額精算でないため、領収書を経理担当者へ提出して実額の根拠として示す必要はなくなります。実際に出張した事実等を示しての精算手続きは必要ですが、経費精算の手間がだいぶ楽になると思います。
会社側にとっても、経費精算にかかる経理作業がシンプルになり、経理業務にかかる人件費を抑制することができる可能性もあります。
税務上、否認されないためのポイント
出張旅費規定を作成することは、とても大切ですが、出張旅費規定を作りさえすれば、日当や旅費を必ず従業員にとって非課税で社会保険の対象外とできるかといえば、そうとはいえません。
役員及び使用人の全てを通じて適正なバランスが保たれていること
この点、所得税法基本通達9−3では、非課税とされる旅費の範囲として、「その支給額が、その支給をする使用者等の役員及び使用人の全てを通じて適正なバランスが保たれている基準によって計算されたものであるかどうか」を勘案するものとされています。
まず、出張旅費規定は、特定の役員だけのものではなく、全従業員を対象としたものとして設計する必要があります。
仮に特定の役員や従業員だけを対象とした場合、その規定により支払われる日当は、実質的に給与であるとして、個人所得税の課税対象とされる可能性が高いでしょう。
同業種、同規模の他の法人の一般的な支給水準との比較
さらに、所得税基本通達9−3では、「同業種、同規模の他の使用者等が一般的に支給している金額に照らして相当と認められるものであるかどうか」も勘案するものとされています。
すなわち、規定されている日当の水準が、同業種、同規模の他の会社における一般的な水準から乖離して不相当に高額である場合、当該日当と一般的な水準との差額について、実質的な給与と解釈され個人所得税の課税対象とされるリスクがあります。
例えば出張時の日当が1日あたり10万円であれば、仮に出張旅費規定に示されたとおりだとしても、税務調査で、非課税としての主張を否認されるリスクがあります。
対象となる出張の定義が明確で、管理されていること
最後に、日当を含めた出張旅費の支給の対象となる、出張の定義が明確になっており、その定義が社会通念上おかしくないものとなっていることが必要と考えられます。
例えば、会社が日当を支給すると規定で定めている出張の対象が、非常に近距離のクライアント訪問も含めていた場合、そもそも日当の支給が妥当なのか?指摘を受けるかもしれません。
これは、日当をあくまでも出張旅費の精算の一部とするのであれば、出張によって従業員等にかかった雑費等を含んだ負担を補填しているという趣旨で説明できることが必要と考えられるためです。
このため、非常に近距離だったりと、通常の出張以外の勤務の際と、従業員等にかかる負担が殆ど変わらない場合には、実質的な従業員給与や役員報酬だと認定を受けるリスクがあると考えられます。
もちろん、出張の定義が定められていたとしても、出張の申請や記録がしっかりと残されておらず、管理がされていない場合にも、同様の認定を受けるリスクがあると考えられます。
まとめ
いかがだったでしょうか。
適切な出張旅費規定を整備し運用することは税務面で大きなメリットがありますので、もし未だ導入されていない場合にはぜひ導入して活用いただけると良いかと思います。
一方で、出張旅費規定をしっかりと作らなかったり、規定はできたけど運用時にしっかり管理できていないということになれば、期待した節税効果を得られないことになります。
特に、税務申告時には節税効果が得られるという計算を行っていても、税務調査のタイミングで否認され修正申告をすることになり得ます。
その場合、後から、予期しない税金の支出が発生することになりますので、なるべくしっかりと規定を整備して運用していきたいですね。
関連して、同じように規定を作って節税につなげるものとしては、残業時の食事の支給の論点があります。そちらの記事もぜひお読みいただければ幸いです。
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