電子帳簿保存法、結局何が必要?2024最新の状況と対策とは。

新しい税制や動向

電子帳簿保存法は法人税等の申告に関わる帳簿や書類を紙でなくデータで保存することを可能にする法制度です。

このためDX化に前向きな会社にとっては有利なはずですが、意外と細かいルールもあり税制改正で変化し続けていることから以下の点など注意が必要です。

2024/1/1以降の電子取引データ保存義務化
・電子帳簿保存法の宥恕措置2023/12/31終了
国税関係帳簿保存義務のある事業者全てが対象
法人と個人事業主、事業規模で義務は不変
電子取引データ保存が一定の場合不要
ECサイト領収書ダウンロード不要の場合も
ネットバンク通帳明細もダウンロード不要の場合も
青色申告承認取り消しのペナルティあり
ペナルティで経費とできない場合あり
重加算税がさらに加重される場合あり
・一定の場合の猶予・緩和措置あり

「ついに電子帳簿保存法の一部が義務化されましたね」

より具体的にどのような点に注意すれば良いか説明していきます。

電子帳簿保存法とは

電子帳簿保存法とは

電子帳簿保存法は、納税者が国税関係帳簿書類を保存する際の負担を軽くするために、電子データによる保存等を容認することを一つの目的として作られた法律です。

パソコン等による電子データの処理は、紙面等に比較して、痕跡を残さずに記録を遡って訂正をすることが容易です。

このため、負担を軽くすることを意図しつつも、適正で公平な課税の確保に必要な条件整備を行うために、一定のルールが定められています。

特に、2024年現在では既に収まっていますが、2020年に始まった新型コロナウイルス感染症の影響がありました。

この結果、企業のテレワークやペーパーレス化の推進は以前と比べてかなり進んできています。

このような背景からも、電子帳簿保存法について義務化の部分だけでなく容認の部分も含めて積極的にその内容を理解し、可能な範囲で取り入れていくことも一つと考えられます。

電子帳簿保存法の3つの区分

このような電子帳簿保存法ですが、以下の大きく3つの区分から構成されています。

電子帳簿等保存

パソコン等で最初から作成している帳簿(※1)や決算関係書類(※2)は、プリントアウトして保存するのでなく、電子データのままで保存ができます。

※1 総勘定元帳や現金出納帳、仕訳帳、補助簿など
※2 貸借対照表や損益計算書、棚卸表など

こちらは、現時点では義務化されているわけではありません。

あくまでも、希望者に新たな保存方法の選択肢を与えている位置付けとなります。

スキャナ保存

スキャナ保存

契約書や見積書、注文書、請求書など、

①取引相手から紙で受け取った書類や、

②自身が手書きなどで作成して取引相手に紙で渡す書類の写しは、

一定の要件に従うことで、書類自体を保存する代わりに、スマホやスキャナで読み取った電子データを保存することができます

こちらも、電子帳簿等保存と同じく、現時点では義務化されているわけではありません。

あくまでも、希望者に新たな保存方法の選択肢を与えている位置付けとなります。

電子取引データ保存

請求書、領収書、契約書、見積書などに関する電子データを送付したり、受領した場合(電子取引の場合)には、その電子データを一定の要件に従った形で保存することが必要です。

こちらは、上記の2つと異なり、2024年1月1日以降に行う電子取引について、義務化されています。

令和5年(2023年)12月31日までに行う電子取引については、電子データの保存ではなく、電子データをプリントアウトしたものを保存しておけば大丈夫でした。

これが2024年1月から適用される改正電子帳簿保存法によって義務化されたものとなります。

電子帳簿保存法のうち義務化は?

結局、電子帳簿保存法の3つのタイプのうち「電子取引データ保存」が、当面2024年現在では義務化されているものです。

すなわち、必須で対応しなければならないものです。

逆に他の2つ、電子帳簿保存、スキャナ保存については、現時点では義務化されていません。

あくまでも希望をされる方のみが任意で対応するもの、どちらかというと選択肢を広げるものです。

このため、システム導入や業務オペレーションの変更の負荷が重い場合には、まずは、この電子取引データ保存に絞って対応されることが良いでしょう。

まずは最低限のものを確実に対応することが大切です。

このため、以下ではまずは電子取引データ保存を優先して具体的な説明をさせていただきます。

「余力があれば一気に導入も、余力がなければ最低限から対応するのも一つですね」

電子取引データの対象とは

それでは、この義務化される対象となる、電子取引データの対象とはどのようなものでしょうか。

電子取引データの対象とは

電子取引データの考え方

注文書や契約書、送り状、領収書、見積書、請求書など、紙でやり取りしていた場合に保存が必要な書類に相当する電子データをやり取りしていた場合が対象となります。

電子データのやり取りについては、受け取った場合だけでなく、送った場合も対象となります。

なお、あくまでも電子データでやり取りしていたものが対象であって、紙でやり取りしていたものをデータ化しなければならないわけではありません。

電子取引データの対象例

例えば以下は電子取引に該当します

電子取引データの対象例

電子メールで請求書や領収等のデータを受領

・インターネットのHPからダウンロードした請求書や領収のデータまたは、HP上に表示される請求書や領収書等の画面印刷を利用

(ECサイトで商品サービスを購入した場合など)

電子請求書や電子領収書授受にクラウドサービス利用

スマホアプリで決済を行いアプリ提供事業者から利用明細等受領

請求書や領収書等データをDVD等記録媒体を介し受領

電子取引データの保存ルール

電子取引データの保存ルール

次に、電子取引データの保存ルールとしては、3つのポイントがあります。

簡単に言うと、真実性の確保のために

①改ざん防止のための措置をとる必要があり、

可視性の確保のために、

「日付・金額・取引先」で検索できることと、

ディスプレイやプリンタ等を備え付ける必要があります。

電子取引データ改ざん防止の措置

システム費用をかける方法を選択できる場合には、タイムスタンプを付与する(電磁的なタイムスタンプを付与できるシステムを導入した上で)方法以外にも選択肢があります。

訂正・削除の履歴の残るシステム等での電子取引データの授受・保存を行う方法があります。

但し、これらの方法を行うためには多額のシステム費用がかかります。

このためシステム費用をかけずに導入できる方法として、改ざん防止のための事務処理規定を社内で定める方法も用意されています。

事務処理規定を運用することで改ざんがされることを防ぐというものになります。

特に、電子取引データ保存は、任意ではなく2024年1月以降の取引について全ての法人を対象として義務化されるものです。

このため、まずは導入が容易な方法により最低限の対応を行うことは現実的であり合理的とも思われます。

(関連記事)→電子帳簿保存法のタイムスタンプ、本当に必要?間違えやすいポイント解説。

「日付・金額・取引先」で電子取引データ検索

こちらについてもシステム費用をかけることができる場合には、専用のシステムを導入することが考えられます。

一方、システム費用をかけずに対応する方法ですが、2つの方法が提示されています。

表計算ソフトで索引簿作成

1つ目は、表計算ソフト等で索引簿を作成する方法です。

たとえば、エクセル等のソフトを使い、通し番号欄、日付欄、金額欄、取引先欄、備考欄を横軸に設定して、縦にリストのように記録をすることで索引簿として管理し、検索に対応できます。

電子取引データのファイル名を工夫

2つ目は、データのファイル名に、日付や金額、取引先の情報を規則的に入力するようにして、そのファイルを特定のフォルダに集めて保存しておくことです。

フォルダの検索機能を使ってファイル名を検索することで「検索」に対応ができます。

電子取引データの検索要件の免除

2課税年度前の売上高が5,000万円以下の方は、調査官からの電子取引データのダウンロードの求めに応じることができるようにしていれば、上記の検索要件が免除されます。

同様に、電子取引データをプリントアウトして日付及び取引先ごとに整理されている方も、

調査官からの電子取引データのダウンロードの求めに応じることができるようにしていれば、

上記の検索要件が免除されます。

電子取引データ保存でよくある質問

ECサイトの領収書ダウンロードは必ず必要?

例えば、ECサイトで商品を購入した際に、ECサイト上のマイページ等から領収書等データをダウンロードできる場合があります。

例えばアマゾンや楽天で購入した場合などをイメージしていただけると良いと思います。

この場合、領収等データをマイページで確認できるようになった時点が、電子取引の授受があったタイミングとして扱われます。

そして、電子取引データ保存のタイプに該当するため、電子取引データの保存が必要となります。

但し、この際には、必ずしも領収書等データをECサイト上のマイページ等からダウンロードして保存しなくても良いことになりました。

ダウンロード保存しなくて良い条件

条件としては、基本的に以下のようなものとなります。

・このECサイト上でその領収書等データを随時に確認可能な状態であること

・このECサイト提供事業者が、「真実性の原則」「検索機能の確保」の要件を満たしていること

 (ECサイト上の購入情報管理ページ内でこれらが満たされていることと考えられます)

・各税法で定められた保存期間が満了するまでの間、ECサイト上で領収等データを随時確認可能

 (ECサイト上で途中から確認できなくなる場合は、その前にダウンロード保存が必要)

こちらは、2024年3月に国税庁から、特に問い合わせが多い質問への回答として公開された内容で明らかになったものです。

国税庁の開示する「電子帳簿保存法一問一答」の次回改訂版から反映されるものとされています。

インターネットバンキング利用時の振込データのダウンロードは?

インターネットバンキングを利用した振り込み等にかかる取引年月日や金額、振込先名等が記載されたデータについて、

このデータや画面をダウンロードするか、
印刷機能によりPDFファイルを作成すること

などがガイドされていました。

こちらについては、より実務を考慮して2つの対応ができることが明らかになりました。

まず、インターネットバンキングのオンライン上の通帳や入出金明細等をダウンロードして保存することで問題ないことが明らかになりました。

そしてさらに、このオンライン上の通帳や入出金明細等の確認が、随時可能な状態であれば、必ずしもダウンロードして保存しなくても問題ないことになりました。

なお、この場合の前提条件は、上記のECサイトの領収書等データのケースと基本的に同様のものとなっています。

インターネットバンキングの活用で業務自体がすでに効率化されています。

インターネットバンキングを活用した税務・会計に関する効率化はクラウド会計におけるインターネットバンキングデータの自動連携もあります。

どんどん合理化されていく流れですね。

詳細はこちら→クラウド会計の導入で税理士との関わり方が変わる?メリットと注意点を解説

電子帳簿保存法の罰則・ペナルティは?

それでは電子帳簿保存法が義務化している電子取引データの保存方法に従わなかった場合、一体どのような罰則やペナルティがあるのでしょうか。

順番に見ていきましょう。

青色申告の承認取り消し

2024年1月1日より後に行われる電子取引の取引情報にかかるデータ保存について、義務化された通りに保存していない場合、青色申告の承認の取り消し対象となることがあります。

青色申告の承認が取り消されれば、白色申告となり、青色申告の特典を受けることができなくなります。

例えば、法人の場合、青色申告でない事業年度に発生した欠損は繰越欠損金として翌期以降の利益と相殺することができません。

また、中小企業者等に認められている少額減価償却資産の特例で30万円未満の減価償却資産について初年度に全額損金に算入できる特典も使えなくなります。

但し、災害やその他のやむを得ない事情、または、税務署長が相当の理由があると認める事由がある場合には、青色申告の取り消しの対象とならないとされています。

法人の繰越欠損金の制度は10年間繰り越すことができる点で、個人の3年を大きく上回るメリットがあるものです。

このため、これを使うためにも青色申告の承認取り消しは回避したいですね。

経費の損金算入等が否認されるリスク

上記と同様に、2024年1月1日より後に行われる電子取引データ保存について、電子帳簿保存法で義務化された通りの対応がされていない場合、そのデータや書類は、有効な取引データ等としてみなされません

その結果、帳簿や税務処理の根拠として認められないことになります。

このため、例えば、法人税の計算において経費として損金算入をしたいと思っても、税務調査で否認されるリスクがあります。

税務調査においては、納税者からの追加的な説明や資料提出、取引先の情報等を総合的に勘案して確認されるとはなっています。

とはいえ、最終的に否認されれば、追徴課税が発生する可能性があります。

「総合的には見てはくれるものの、リスクは避けたいですね」

重加算税がさらに加重されるケース

重加算税は、例えば、税務調査等で不正を行って税金を過少申告していることが判明した場合に、重加算税として追徴税額の35%が上乗せで課されるものです。

これが、電子取引データ保存やスキャナ保存した電磁的記録について、

削除や改ざんなどにより、売上を小さく見せたり、

経費を水増ししていたり、

また、架空取引等を計上している場合には、

さらに加重されることになります。

つまり、過少申告の場合では、通常の重加算税35%の金額に、追徴本税のうち該当する部分の10%がさらに上乗せされることになります。

なお、こちらの趣旨ですが、保存に関するルールを細かく設定して不正防止するという考え方ではありません。

事後的に罰・ペナルティを与えることにより、不正を抑制しようという考えがあるようです。

電子取引データ保存の猶予・緩和措置

電子取引データの保存は上記のとおり、2024年1月以降の電子取引について義務化されています。

但し、人手が足りなくて準備が間に合わないなどの一定の場合については、これを猶予・緩和(宥恕)する措置があります。

以下の条件を満たす場合には、電子取引データを保存しておくだけで良いとされています。

①電子取引データ保存の一定のルールに従って電子取引データを保存することができなかったことについて、所轄税務署長が相当の理由があると認める場合(人手不足など含む)

税務調査の際に電子取引データのダウンロードの求め電子取引データをプリントアウトして書面の提示・提出の求め、のそれぞれに応じることができるようにしている場合

電子帳簿保存法まとめ

いかがだったでしょうか。電子帳簿保存法について、大きなイメージを把握することに役立つことができれば大変幸いです。

電子帳簿保存法は、ここ数年でも毎年のように税制改正で細かく調整がされており、実務対応者側の反応なども見て色々更新がされています。

そのことで、逆に、巷には古い情報も含め、色々な情報がごちゃごちゃに溢れてしまい、最新の状況が分かりにくくなっているという面もあるように思えます。

まずは、直近で義務化がされる電子取引データの保存を優先して、把握の上で対策をしていくことが宜しいかと思われます。

まずは最低限求められている対応を確実にこなしていくことも一つです。

参考)国税庁による電子帳簿保存法Q&A

なお、個々の電子帳簿保存法についてのより詳しい実務を確認したい方は、国税庁のウェブサイトでは、電子帳簿保存法に関するQ&Aを確認することがおすすめです。

電子帳簿・電子書類関係、スキャナ保存関係、電子取引関係と、それぞれに分けて一問一答が取りまとめられています(国税庁 電子帳簿保存法一問一答(Q&A))。

具体的なケース等を確認したい場合には、ぜひご参照いただけると良いかと思います。

特に、2024年1月1日以後の取り扱いに関するものについては、国税庁から新しいものが開示されています。

それ以前の取り扱いに関する国税庁の古いQ&Aから更新されていますのでご注意ください。

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