2023年10月からインボイス制度(適格請求書等保存方式)が始まりました。
インボイス制度の導入によって請求書や領収書が変わるだけでなく実際に消費税の課税額が影響を受けます。
仕入れを計上する側も売上を計上する側の方も特に以下の点に注意が必要です。
・請求書等の記載事項が変わる
・未登録事業者から仕入れ時の消費税相殺が制限
(仕入税額控除への影響)
・免税事業者がインボイス登録で課税事業者に変わる
・未登録事業者から仕入れ時の制限は段階的に厳格化
・免税事業者が登録の場合に2割特例が使える
・業種によって2割特例より簡易課税が得な場合も
以下で、より具体的にインボイス制度の概要と、どのような点に注意すれば良いか説明していきます。
インボイス制度の概要
請求書等の記載事項が変わる
インボイス制度の開始後(2023年10月以降)は、消費税の申告の観点から、請求書に求められる記載事項が変わりました。
追加して求められる記載事項
従来の請求書には求められていなかった以下の3つが原則、追加して求められるようになります。
1)適格請求書発行事業者としての登録番号
2)適用税率
3)税率ごとに区分した消費税額等
従来から求められていた記載事項
これに対して、従来から請求書に求められていた記載は以下のとおりです。
4)請求書発行事業者の氏名または名称
5)取引年月日
6)取引内容
7)税率ごとに区分して合計した対価の額
8)書類の交付を受ける事業者の氏名または名称
こちらは、従来から多くの方にとって馴染みがある請求書の基本的な記載事項だと思います。
請求書記載事項が追加される影響
上記の1からは、請求書発行事業者がインボイス制度への登録が完了していることが前提となります。
ここが大きなポイントで、請求書発行事業者は、インボイス制度へ登録をすることが促されます。
インボイス制度へ登録をすることの影響は後述しますが、まずはこの点を覚えておきましょう。
次に上記の2と3ですが、ここは1とは若干性質が異なり、より詳しい消費税にかかる情報の記載の追加といったところです。
但し、請求書の記載項目が追加となるため、請求書フォーマットの変更等が必要となります。
仕入税額控除への影響
仕入税額控除とは、売上時に顧客から預かった消費税から、仕入時に仕入れ先へ支払った消費税のうち一定のルールによって計算された金額を、控除する仕組みです。
未登録事業者からの仕入税額の控除に制限
これがインボイス制度導入後には、インボイス制度に登録されていない事業者からの仕入時に支払った消費税は相殺が難しくなります。
しばらくは経過措置として完全に控除できないわけではなく、不利になるものの一定割合の控除は認められます。
そして、その割合が徐々に変化して、経過措置の適用期間が終了後には完全に控除できなくなる、という流れとなっています。
このため、インボイス制度に登録していない会社からの仕入れや調達は、消費税の観点からは、不利になる面があります。
取引を避けられるよりインボイス制度へ登録する流れも
その結果、インボイス制度未登録を理由に取引を避けられるよりは、インボイス制度へ登録しようという動きが促されるという流れが考えられます。
インボイス制度への登録手続き
簡単にいうと、インボイス制度へ登録するということですが、正確には、「適格請求書発行事業者」の登録ということになります。
登録申請書を税務署へ提出する
このためには、「適格請求書発行事業者の登録申請書」を税務署へ提出することが必要です。
この後、税務署の審査を経て、適格請求書発行事業者として登録され、税務署から登録通知が送付されます。
適格請求書発行事業者になると公表される
さらに適格請求書発行事業者として、登録番号とともに公表されます。
公表された情報は、国税庁の運営する適格請求書発行事業者公表サイトで確認ができます。
請求書に記載されている登録番号を上記のサイトで入力し検索をすると、事業者名の確認ができますので、実際に登録がされているかどうかを確認することができます。
登録のためには課税事業者となることが必要
そしてこの登録を行うためには、課税事業者であること、または同時に課税事業者となることが前提となります。
免税のメリットは捨てることになる
すなわち、今まで課税売上高が1000万円以下で、免税事業者として消費税の納税を免除されていた事業者は、この免税のメリットを捨てて、自らが課税事業者となることを選択しなければなりません。
ここが、免税事業者の方にとっては大きな選択となります。
手続き自体は経過措置でシンプルになっている
なお、免税事業者が課税事業者になるためには、従来「消費税課税事業者選択届出書」を税務署へ提出する必要がありました。
但し、この点は当面経過措置でシンプルにインボイス制度の登録申請だけで足りるようになっています。
具体的には、2023年10月1日から2029年9月30日までの日の属する課税期間中であれば、「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出します。
これだけで、免税事業者は、同時に課税事業者として取り扱われるようになります。
仕入税額控除にかかる経過措置
上記の通り、インボイス制度導入後は、インボイス制度に登録していない免税事業者等からの仕入れ時には、消費税の仕入税額控除が制限を受けます。
具体的には、免税事業者等からの課税仕入は以下のステップで、仕入税額として認識できる割合が減っていきます。
1)2023年10月1日から2026年9月30日までの3年間は、80%を仕入税額として認識可能です(従来に比べ20%のロス)。
2)2026年10月1日から2029年9月30日までの3年間は、50%を仕入税額として認識可能です(従来に比べ50%のロス)
3)2029年10月1日からは、仕入税額として認識できるのは0%です(従来に比べ100%のロス)。
免税事業者は登録すべきか?
免税事業者のままでいた場合
まずは、このまま免税事業者のままでいた場合について考えてみましょう。
引き続き、消費税の免税のメリットを得ることはできる
上記の通り、課税売上高が1000万円以下の免税事業者の方は、従来通り課税事業者となることを自主的に選択しない限りは、消費税の納税を免除される「免税」のメリットを受けることができます。
インボイス制度に登録できないことでデメリットが発生
一方で、免税事業者で居続けると、インボイス制度への登録、適格請求書発行事業者になることができません。
登録ができなければ、顧客の企業等側では、取引にかかる消費税を仕入税額として控除することが制限されます。
このため、顧客の判断によっては取引を避けられるリスクがあるでしょう。
つまり、免税事業者で居続けることで、顧客が減るリスクがあります。
適格請求書発行事業者になる場合
次に、今まで免税事業者であったけれど、これを機会に適格請求書発行事業者になった場合について考えてみましょう。
課税事業者になるため、消費税の納税義務が発生
免税事業者は適格請求書発行事業者の登録申請を行い、申請が受け入れられることで、適格請求書発行事業者となると同時に課税事業者になります。
つまり、今までは免税であったものが、課税事業者として消費税の納税義務が発生するようになります。
すなわち、消費税の売上税額から仕入税額控除を行なった残額について、納税が必要となります。
また、その前提として、消費税申告書を作成し提出することが必要となります。
適格請求書発行事業者を優先する顧客との取引でメリット
取引先である顧客が一定規模以上の法人等であれば、基本的には免税事業者となる要件を満たすことはできません。
このため、通常は消費税の課税事業者となります。
そうなると、課税事業者の顧客は、自分の消費税の納税額の負担を増やしたいとは通常思いません。
このため、顧客側で仕入税額控除に制限が発生してしまう免税事業者との取引は、今まで以上に避けたいと思うことが考えられます。
その結果、顧客は、仕事を発注する候補が複数あるのであれば、他の条件が同じであれば、適格請求書発行事業者の方を選ぶことになると思われます。
こうして、インボイス制度に登録したことが仕事の受注をする上で有利に働く可能性があります。
業種や顧客の特性によって、メリットとデメリットの関係は変わる
但し、このようにインボイス制度への登録の有無によって、顧客が減るかどうかは、業種にもよりますし、取引を行っている顧客の性質にもよる面はあると思います。
例えば、一般消費者を顧客としている場合には、一般消費者の方は通常は消費税申告とは関係しないため、特にインボイスの登録有無によって影響を受けることは考えにくいです。
法人を顧客としている場合には、インボイス制度の登録有無が顧客側の消費税額に影響を与えるため、登録をしていない免税事業者は不利になります。
但し、顧客側が、消費税の影響よりも、発注金額自体で判断されるケースや、サービス品質等を重視するケースもありえます。
この辺りは、自社の顧客の業種や性質も踏まえて、判断をされることが良いと思われます。
インボイス制度における2割特例
なお、上記のように、今まで免税事業者であった事業者が、インボイス制度への導入に伴い課税事業者となる一定の場合には、自身の納税額を軽減する特例が激変緩和措置として設けられています。
こちらの2割特例は、2023年10月1日から2026年9月30日までの3年間の経過措置として一旦設けられています。
原則課税と2割特例の比較
具体的には、消費税の納税額が、売上税額から仕入税額控除を行なった金額(原則課税)ではなく、売上税額の2割に軽減される制度となります。
例えば、売上高に対するコストの殆どが人件費の場合などでは、売上高に対して外部からの仕入高の割合は小さく、売上税額に対する仕入税額の割合が小さくなることが想定されます。
そのようなケースにおいては、売上税額の2割に消費税の納税額が軽減されることは大きなメリットとなると考えられます。
簡易課税と2割特例の比較
但し、消費税の納税額の計算としては、従来より、原則課税の他に簡易課税の方式を届出することで選択ができました。
簡易課税は2割特例と計算方法が似ている
簡易課税とは、基準期間の課税売上高が5,000万円以下の場合に選択届出を提出することで利用できる課税方法です。
簡易課税を選択した場合は、業種ごとに設定されている「みなし仕入率」を課税売上高に掛けることで、仕入控除税額を計算することになります。
つまり、上記の2割特例の計算と非常に似た計算を行うことにはなります。
簡易課税では業種ごとの「みなし仕入率」が異なる
但し、簡易課税の場合、業種ごとに設定されている「みなし仕入率」が第1種事業(卸売業)から第6種事業(不動産業)で90%から40%まで変化することになります。
(国税庁の説明する事業区分ごとのみなし仕入率)
業種によって、簡易課税が有利な場合と不利な場合が分かれる
みなし仕入率が80%の場合、結果的に納税額は売上税額の20%となりますので、基本的に上記の2割特例と同じ納税額となります。
このため、みなし仕入率が80%を超える区分の業種であれば、簡易課税の方が納税額の点で有利となります。
逆に、みなし仕入率が80%未満の区分の業種であれば、2割特例の方が有利となると考えられます。
インボイス制度と電子帳簿保存法
インボイス制度の導入によって、請求書は適格請求書の要件を満たす必要があります。
そしてが同時に、適格請求書は適切に保存・管理がされている必要があります。
その際には、税務上認められる方法で適格請求書を保存する必要があります。
なお、その保存の要件については、電子帳簿保存法の内容も踏まえて対応することが必要となります。