役員社宅で会社が負担する費用は、福利厚生費として会社の経費にできます。役員報酬とならないため個人所得税や社会保険料も増やさずに役員が住宅費を軽減できます。
つまり法人税と所得税の両面で節税が期待できます。
但し、主に以下の点に注意が必要です
・賃貸契約は法人名義で契約
・家賃のうち適切な金額を役員から徴収
(家賃の50%が適切な金額とは限らない)
・「豪華社宅」に該当しないこと
・社内規程でルールとして明確にする
これらを満たさないと税務調査等で会社負担分を役員報酬だと指摘され(福利厚生費でないとして)節税できないリスクがあります。
役員社宅の仕組みと節税するため注意すべき点を説明していきます。
役員社宅を経費にして節税
「役員社宅」がなぜ節税策となるのか?説明していきます。
会社負担分を経費として節税(法人税)
役員社宅を会社が提供する場合、適切な対応を行うことで会社の負担分を経費(損金)とできます。
会社が外部へ支払った家賃から役員の家賃負担分を差し引いた金額、つまり会社の負担する金額を会社の経費(損金)とできます。
法人税の計算の前提となる課税所得が経費の分小さくなり、法人税額が小さくなります。
「役員の家賃で完全な住居だけど会社の経費にできるんですね!」
福利厚生費扱いで節税(個人所得税)
役員社宅によって役員は住居費用を節約できます。この分を役員報酬から減らせば役員の個人所得税を節税できます。
どういう関係になっているか、以下の設例でイメージしてみましょう。
設例1ー役員社宅制度がない場合
役員社宅制度:なし
役員報酬:年間2,000万円
役員の家賃:年間400万円
役員報酬 – 家賃自己負担:年間1,600万円
この場合、役員への所得税は、年間2,000万円の役員報酬に対して発生します。
設例2ー役員社宅制度がある場合
役員社宅制度:あり
役員報酬:年間1,800万円
役員社宅:会社が契約した年間400万円の住居
役員負担金:年間200万円
役員報酬 – 家賃自己負担:年間1,600万円
この場合、役員への所得税は、適切な役員社宅であれば年間1,800万円の役員報酬のみにかかります。
結果、役員社宅が節税になる
役員にとって、役員報酬(税引前)から自身の住居費を差引いた金額は、いずれも1,600万円です。
しかし、役員の所得税は役員社宅制度を利用した方が少なく、節税となります。
家賃200万円分の得をする分へは個人側で所得税がかかりません。あくまでも福利厚生費のためです。
役員にとっての恩恵はそのままに、役員報酬を社宅の会社負担分だけ引下げることができます。
節税が社会保険料の減少にも影響
社会保険料の水準は、役員の所得によって変化します。役員報酬が下がって所得が下がれば社会保険料の金額も下がります。
会社負担分の社会保険料も役員個人が負担する社会保険料も下がります。
節税の対象となる役員社宅とは
そもそも、節税の対象となる役員社宅の制度とはどのようなものでしょうか。
役員社宅とは会社が直接契約する住居を役員に賃貸する仕組みです。
会社が外部に支払う賃料の全部ではなく、一部を役員から社宅賃料として回収します。
その差額を会社側が負担するという関係となります
「社宅」で経費負担すると安く住める
「社宅」は、会社が住居を自社役員や従業員へ提供するものです。
そして、通常は「社宅」を役員や従業員へ提供する際に一定の賃料を回収します。
役員や従業員にとって、自分で直接借りるよりもお得でないと借りる意味がありません。
このため負担する賃料は直接借りる場合よりもお得な水準に設定されることが一般的です。
社宅は会社の福利厚生目的で運用
結果、役員や従業員は家賃を節約することができます。
そして、会社負担分を福利厚生費の一部として取り扱うことができます。
役員や従業員の会社に対する満足度を上げる福利厚生的な施策として意味があります。
役員社宅は家族向け住宅がメイン
一般的に従業員に対する社宅は社員寮的なものが多いです。
まとまった一つのアパートを借り上げて複数の従業員が各部屋を使うようなイメージです。
一方「役員社宅」は個別の家族向け住居を会社が契約の上で役員に貸すというスタイルが一般的です。
役員社宅はある程度グレードが高い住居
一般的に従業員と比較して役員の所得水準の方が高く、住居についてもより賃料の高いものを選ぶ傾向にあります。
このため同じ社宅ですが、より高いグレードの住居とすることが多いです。
社宅と住宅手当の違い
「社宅」と似たものに、住宅手当があります。
会社にとっての福利厚生手段としての意味合いは社宅も住宅手当も非常に近いものがあります。
但し、社宅は会社が契約した住居を役員や住居に貸すものですが住宅手当は違います。
住宅手当は役員や従業員が直接契約した住居の費用負担を補助をするものです。
社宅と住宅手当の設例
例えば、以下のように役員等が負担する家賃が同じでも、社宅と住宅手当で建付けが異なります。
<社宅>
会社が外部へ支払う家賃:20万円
役員等が会社へ支払う負担分:10万円
<住宅手当>
役員等が外部へ支払う家賃:20万円
会社が役員等へ支給する手当:10万円
(役員等が実質負担する家賃:差引き10万円)
役員社宅を経費として節税する条件
このように会社にとっても役員にとってもメリットのある役員社宅制度です。
但し、メリットを受けるためには、適切な役員社宅であることが、税法上必要です。以下にご説明していきます。
役員に適切な水準の家賃を負担させる
役員社宅を会社が提供する際、会社側が賃料を全額負担することはできません。必ず、家賃の一定額を役員本人に負担させる必要があります。
そして、役員本人が負担すべき水準(賃貸料相当額)は、国税庁によって基準が定められています。
「小規模な住宅」社宅の賃貸料相当額
小規模な住宅の前提と賃貸料相当額の計算方法の概要は以下です。現在、国税庁から示されている内容を、当サイトで簡単に整理したものです(2024/5月時点。以下同様)。
項目 | 内容 |
---|---|
小規模な住宅の前提 | 以下のいずれか ・法定耐用年数が30年以下の建物、かつ床面積が132平方メートル以下である住宅 ・法定耐用年数が30年を超える建物、かつ床面積が99平方メートル以下 ※区分所有建物は共用部分の床面積をあん分し、専用部分床面積に加えて判定 |
賃貸料相当額(役員が要負担) | 以下の3つの合計額 ・対象年度の建物の固定資産税 課税標準額✖️0.2% ・12円×(建物の総床面積(m2)/3.3m2) ・対象年度の敷地の固定資産税 課税標準額✖️0.22% |
上記のように法定耐用年数が30年以下か30年超かで、小規模な住宅として認められる床面積の範囲が変わります。
例えば、木造の建物は22年、重量鉄骨造の建物は34年、鉄筋コンクリート造の建物は47年です。
それを踏まえると、木造建物であれば比較的広い床面積でも認められるという点があります。
「小規模な住宅でないもの」社宅の賃貸料相当額
項目 | 内容 |
---|---|
小規模な住宅でないもの | 上記の「小規模な住宅」の前提に該当しない住宅 |
賃貸料相当額(自社所有社宅の場合) | 次の2つの合計額の12分の1が賃貸料相当額 ・対象年度の建物の固定資産税 課税標準額✖️12% ※法定耐用年数30年超の建物は12%でなく10% ・対象年度の敷地の固定資産税 課税標準額 ✖️6% |
賃貸料相当額(借上社宅の場合) | 以下のいずれか多い方の金額 ・会社が家主に支払う家賃の50パーセントの金額 ・上記の小規模な住宅(自社所有の社宅)で算出した賃貸料相当額 |
「豪華社宅」社宅の賃貸料相当額
ここで注意なのが、この「いわゆる豪華社宅」として国税庁で示されている扱いです。
項目 | 内容 |
---|---|
いわゆる豪華社宅 | 社会通念上一般に貸与されている社宅と認められない 床面積が240m2を超えるもののうち、取得価額、支払賃貸料の額、内外装の状況等の各種要素を総合勘案して判定 床面積が240m2以下のものであっても、一般に貸与されている住宅等に設置されていないプール等の設備や役員個人の嗜好を著しく反映した設備等を有するものについては、いわゆる豪華社宅に該当 |
賃貸料相当額 | 通常支払うべき使用料に相当する額 |
ポイントは、賃貸料相当額が「通常支払うべき使用料」とされていることです。つまり、豪華社宅の場合、賃料全額を役員が負担する必要があると考えられます。
もし会社が豪華社宅の賃貸料の一部を負担すると、役員報酬として扱われます。通常の役員社宅ならば期待できた節税効果が無くなるので注意ですね。
(参考 国税庁HP「No.2600 役員に社宅などを貸したとき」)
社宅について役員社宅規程で明確に
役員社宅について社内でルールを明確にした上、役員社宅規程/規定に明記し整理が必要です。
税務調査で経費でないと否認されるリスク
社内規定に社宅にかかる扱いが記載されていない場合は注意が必要です。上記の賃貸料相当額を役員が負担していたとしてもリスクがあります。
税務調査官に福利厚生費としての性質に疑念を抱かれ、否認される可能性があります。
社内ルールが曖昧だと、社内で平等・公平な扱いがされていない疑念が持たれるためです。特定の役員に対してのみ実質的な報酬として社宅が貸与されていると考えられるためです。
社宅の適用対象者や負担賃料等を定める
このため社内規定では、社宅の適用対象者を明確にする必要があります。役員が負担する賃料計算方法や申請手続きも明確に示すことが望まれます。
もちろん規定の内容が福利厚生費の性質にマッチしない場合、税務上は効果を否認されるリスクがあるでしょう。
法人名義で住宅の賃借契約を締結
役員社宅賃料の会社負担分を経費とするためには、対象となる住宅が法人名義で契約されたものである必要があります。
法人名義で外部の賃貸人との間で賃貸借契約を締結し、法人が役員へ賃貸する関係であれば問題ありません。
逆に、個人名義で役員が外部賃貸人と賃貸借契約を結んで、賃料の一部を会社が役員に支給するという関係だと問題です。
この場合、役員社宅の会社負担分の金額は、福利厚生費として認められず役員報酬とされ、役員が給与課税されることになります。
役員社宅の経費負担と節税ができない場合
役員負担額が「賃貸料相当額」に満たない場合
差額分が実質的な役員報酬として課税
上記各パターンの「賃貸料相当額」負担を役員がしない場合、その差額が所得税で課税されます。
福利厚生費でなく、全て実質的な役員報酬として扱われるためです。
社会保険料にも影響
同時に、社会保険料の計算にも、当初期待したメリットが得られないことになります。
つまり役員社宅として期待する節税効果や社会保険料への効果は全て実現できません。十分留意が必要です。
役員報酬を会社の経費にできないリスク
役員社宅を行わない場合よりも税額が逆に増えるリスクがあります。
それは、上記差額分が当初の想定と異なり実質的な役員報酬と認定され、役員報酬が損金算入できない場合です。
役員報酬となったから必ず損金算入できないわけではありません。但し、例えば、増加する役員報酬が、期首から3ヶ月以内の変更でない場合「定期同額給与」に該当せず経費とできません。
(参考記事)役員報酬は無計画に変更したら税金で大損!失敗しない変更の仕方とは。
個人名義の住宅を役員社宅とする場合
また、前述したように、社宅として会社が住居の契約を法人名義で行う必要があります。
役員が住居の契約を個人名義で行なっている場合は注意です。また、会社が現金で住宅手当を支給する場合には注意が必要です。
役員報酬として給与課税される
このような場合、社宅の貸与としては税務上扱われず、給与課税されてしまいます。
すなわち、役員社宅として期待する節税効果や社会保険料の節約の効果は実現できません。
このため、役員社宅で節税をするのであれば必ず法人名義で契約を行いましょう。
「契約の名義一つで変わってしまうなんて、要注意ですね」
役員報酬が会社の経費にできない
上記の「賃貸料相当額」に満たない額を負担する場合と同様です。
実質的な役員報酬の部分が、期首から3ヶ月以内の変更とならず「定期同額給与」に当てはめることができない可能性があります。
税務上経費として損金算入できないリスクがあります。
個人事業主は役員社宅で節税ができない
但し、役員社宅は法人だけが経費として節税できる制度です。個人事業主がこれを経費にして節税することは基本的にできません。
個人事業主の場合、自宅兼事務所では業務利用部分のみを按分し経費とします。純粋な住居部分は経費として損金算入できません。
法人であれば、役員が住居利用する社宅費用の一定額を会社経費として損金算入できます。法人化で活用できる節税策の一つとも言えるでしょう。
役員社宅の節税メリットとデメリット
メリット- 節税と社会保険料節約
このように、役員社宅を適切に運用できた場合には、会社と役員のトータルの税額と社会保険料を節約することができます。
会社の社会保険料負担を節約
具体的には、役員の家賃分も含めた実質的な手取り額を減らさずに、会社側の社会保険料を節約することができます。
そして社会保険料の節約の分、会計上の税引前利益は改善し、そのうちの一部は法人税がかかるものの、税引後利益も改善することになります。
役員の所得税の節税と社会保険料節約
また、役員にとっても、家賃分も含めた実質的な手取り額(税引前)を減らさずに、所得税の負担を減らすことができます。
同時に社会保険料も節約することができます。
このため、所得税と社会保険料の両方が減るため、家賃分も含めた実質的な手取り額(税引後)は増加します。
デメリット
適切な制度設計でないと節税ができない
役員社宅制度を導入したとしても、その設計に税務上の問題があり、会社が負担する一部の家賃の水準が過小であると判断されれば問題です。
その差額については実質的な役員報酬として所得税の課税対象となります。
役員社宅規定の整備に手間や時間がかかる
加えて、社宅制度を適用するためには、役員社宅規定の整備が必要です。
そして規定の整備を行う手間や時間、コストがその分かかることになります。
あえて追加的な取引を会社が行う必要がある
社宅を会社が契約した上で、役員へ貸すという、社宅がなかったら必要な取引を新たに行う必要もあります。
まとめ
役員社宅の活用は、適切な運用をしっかりすれば、企業と役員の双方にメリットがあります。
個人所得税の節税になり、社会保険料の個人負担分・会社負担分ともに節約となります。
一方で、適切な運用を国税庁の示す基準等に沿ってできていない場合は問題です。
その場合、中途半端に役員社宅の制度を導入してしまうことで、かえって導入前よりも悪い状況となってしまうリスクがあります。
このため、実際に役員社宅の制度を導入する際は、よく国税庁の基準等を確認する必要があります。
社内だけで判断するのには難しい場合もあります。
その場合は、税理士など専門家にアドバイスを受けて導入されることがおすすめです。
よくある質問
役員社宅の賃料を会社は何割負担する?
役員社宅は、税務上「小規模な住宅」「小規模な住宅でないもの」「豪華社宅」の3つの区分ごとに、賃貸料相当額として最低限、役員本人が負担するべきかが示されています。つまり、会社が役員社宅の賃料をいくら負担するかはこの役員本人が負担する賃料以外の分となります。
ここで3つの区分ごとに税務上定められている賃貸料相当額の計算方法ですが、いずれも、会社が家主に支払う賃料の何割といった計算方法とはなっておらず、もう少し複雑な計算が必要です。
この税法上定められた計算方法が少し複雑で実際に計算するのに手間がかかることから、あくまでも簡便的に会社が家主に支払う賃料の50%を役員本人負担としておくというケースがあるようです。
但し、実際に税法上定められた計算方法で計算した場合には賃料の50%から乖離する可能性がある点に注意が必要です。
詳しくは、上記記事内「「小規模な住宅」社宅の賃貸料相当額」「「小規模な住宅でないもの」社宅の賃貸料相当額」「「豪華社宅」社宅の賃貸料相当額」をご覧ください。
役員社宅は役員の個人名義で良い?
役員社宅として税務上扱うためには、役員の個人名義でなく、会社の名義とする必要があります。
例えば外部の家主から社宅を賃借する場合には、役員が直接に外部の家主との間で個人名義で賃借契約を締結するのではなく、会社が外部の貸主との間で会社名義で賃借契約を締結する必要があります。
詳しくは、上記記事内「個人名義の住宅を役員社宅とする場合」をご覧ください。