中小企業向け「賃上げ促進税制」- 2024年最新制度をわかりやすく

中小企業向け「賃上げ促進税制」- 2024年最新制度をわかりやすく 節税

中小企業向けの賃上げ促進税制とは、一定の中小企業向けに用意された優遇税制の一つです。

賃上げ等を実現できた中小企業に対して税金を優遇することで各社の賃上げ等を推進する目的で設定されています。重要なポイントは以下のとおりです。

・賃上げで税額控除により法人税等削減
・企業の規模等に応じて3種類の制度
2024/4/1以降開始事業年度から新制度
定期的に税制改正で細かくルール変わる
法人だけでなく個人事業主にも適用
・中小企業向け給与増加額に最大45%税額控除率
法人税等の20%が税額控除額の上限
・中小企業向けだけ5年間の繰越しが可能
育児支援女性働きやすい環境で上乗せ

賃上げ促進税制の内容につき、中小企業向けの制度の特徴、節税メリットなど、なるべく分かりやすく説明していきます。

賃上げ促進税制とは

賃上げ促進税制とは

賃上げ促進税制の概要

賃上げ促進税制とは、簡単に言うと賃上げや人材育成を企業が行うことを促進する税制です。

そして、法人税または個人事業主の所得税にかかる優遇制度です。

賃上げや人材育成にかかる一定の要件を満たすことで納税額が減ります。

人件費の増加額の一定割合を法人税または所得税から控除できます。つまり節税に繋がります。

規模で3つの賃上げ促進制度

特に最新の制度では、企業の規模等に応じて①全企業向け、②中堅企業向け、③中小企業向け、の3つのタイプの賃上げ促進税制が用意されている点が特色です。

3つの賃上げ促進制度の大きな違い

①全企業向けと、③中小企業向けの違いの大きなところは何か?

一つは賃上げの判断基準となる給与総額を計る範囲が違うところです。

そして、二つ目は中小企業向けのみが5年間の繰越しが認められることです。

中小企業向けでは賃上げの判断基準が「全雇用者」の給与総額の伸びとなっています。

これに対して、全企業向けでは「継続雇用者」の給与総額の伸びとなっています。

これは一長一短だと思います。

「継続雇用者」の給与総額の伸びは、「継続」している雇用者の1人あたりの伸び率となります。

会社の従業員数の伸びは少なくても1人あたりで伸びれば数値を維持できます。

逆に「全雇用者」の給与総額の伸びは、会社の従業員数が伸びていることが大きな要素です。

それがあれば個々の1人あたり給与がそこまで伸びていなくても適用できるかもしれません。

この点、中小企業向けには雇用する従業員数の増加自体に対しての優遇が考慮されているように思えまう。

最新の賃上げ促進制度の適用時期

賃上げ促進制度の適用時期

賃上げ促進税制は急に新しく始まった制度ではなく暫く前から税制改正のたびに制度のルールを微調整してアップデートされているものです。

現在2024/8月時点で最新の賃上げ制度について今回はご説明しますが最新制度(令和6年度税制改正によるもの)の適用時期は以下のとおりです。

法人への賃上げ促進制度の適用時期

法人の適用時期は、令和6年(2024年)4月1日から令和9年(2027年)3月31日までの間に開始する各事業年度とされています。

例えば、3月決算の法人であれば2025年3月期(2024年4月1日〜2025年3月31日)の事業年度から2027年3月期までの3期間が対象となります。

個人事業主への賃上げ促進制度の適用時期

個人事業主の適用時期は、令和7年(2025年)から令和9年(2027年)までの各年とされています。

つまり、2025年度(2025年1月1日〜2025年12月31日)の事業年度から2027年度までの3期間が対象となります。

賃上げ促進制度の適用時期が終わった後

なお、この3期間が過ぎたら賃上げに対する優遇税制がなくなってしまうかというと必ずしもそういうわけではありません。

今までの経緯を見ると政権や経済の状況によって多少のブレはあり得るものの、現在最新の制度の期間が過ぎる頃には新しく税制改正で賃上げ等にかかる優遇税制が多少のアップデートをした上で改めて発表されることが予想されます。

中小企業向け賃上げ促進税制の特徴

中小企業向け賃上げ促進税制の特徴

対象となる中小企業、個人事業主

中小企業向けの制度の対象は、青色申告書を提出する中小企業等(資本金1億円以下の法人、農業協同組合等)または従業員数1,000人以下の個人事業主とされています。

賃上げの判定基準

中小企業向けの制度の賃上げの判定基準は、前述のとおり全雇用者の給与等支給額が前年度比でどれくらい伸びているかです。

前年度比で+1.5%以上であれば税額控除率が15%
前年度比で+2.5%以上であれば税額控除率が30%

教育訓練費の上乗せ

教育訓練費の上乗せ

さらに一定の教育訓練費の前年度比が+5%以上であれば上記の税額控除率が+10%上乗せされます。

但し、教育訓練費の上乗せ要件は前年度比だけでなく、適用事業年度の教育訓練費が同事業年度の全雇用者に対する給与等支給額の0.05%以上である場合に限定して適用できるものとなります。

税額控除率とは

ここでいう「税額控除率」ですが、全雇用者の前事業年度から適用事業年度の給与等支給額の増加額に対して乗じる(✖️)ことで税額控除の金額を計算するものです。

税額控除限度額

上記の税額控除率による税額控除の計算の際には、税額控除額は法人税等の額の20%を超えないことが条件となります。

このため、対象年度に当制度適用前の段階で法人税等の額があまり発生していない場合には、賃上げ促進税制で控除できる税額控除額は頭打ちとなってしまいます。

5年間の繰越し措置

対象年度に税額控除を使いきれなかった場合、中小企業向けの賃上げ促進税制では5年間の繰越しが可能となりました。

これは上記の「税額控除限度額」から法人税等の額の20%の水準で頭打ちとなって税額控除率により計算した控除税額が使いきれず残った場合に、この残った額を5年間繰り越して使用できるものです。

子育てサポート企業の優遇「くるみん」

厚生労働大臣が子育てサポート企業として一定の基準を満たす企業を認定する制度が「くるみん認定」という制度です。

この一定の基準を満たす状況により、「くるみんマーク」「プラチナくるみんマーク」「トライくるみんマーク」の3種類があります。

こちらの「くるみん」以上の認定を受けていると、さらに税額控除率が+5%上乗せされます。

「くるみん」の詳細は厚生労働省のホームページ等で確認いただくことができますが、例えば、育児休業の取得率の男女ともの向上や残業時間(少ないこと)に関する一定の基準がある他、関連した一定の制度や措置を行なっていることなどで判定がされることになります。

いわゆるホワイトな労働環境で子育てがしやすい環境を整えている企業を優遇しています。

女性の活躍を推進する企業を優遇「えるぼし」

厚生労働省が進める、女性の活躍を推進している一定の基準を満たす企業を認定する制度が「えるぼし認定」の制度です。

この一定の基準を満たす状況により、「えるぼし(1段目)」「えるぼし(2段目)」「えるぼし(3段目)」「プラチナえるぼし」の4つが認定されます。

このうちの「えるぼし(2段目)」以上の認定を受けている場合にも、上記の「くるみん」以上の認定の場合と同様に税額控除率が+5%上乗せされます。

但し、両方を同時に満たした場合でも+5%の上乗せは変わりません。

「えるぼし」の詳細も厚生労働省のホームページ等で確認いただくことができますが、例えば、女性の採用競争倍率、正社員中の女性の割合、女性の継続就業状況、性別関係なく残業時間(少ないこと)、女性の管理職比率、多彩なキャリア選択肢の有無、などの基準で判断されることになります。

こちらは上記の子育てサポートとはまた別の観点ですが、女性の働く環境の改善といった視点でのホワイトな環境を整えている企業を優遇しています。

中小企業向け制度の税額控除率トータル

上記のように税額控除の率の上乗せ措置が各種用意されています。これらの上乗せ措置も全て満たして適用できた場合、最大で税額控除率は45%となります。

こちらは中小企業向けの賃上げ促進制度が、他の2つの大企業向け・中堅向けの賃上げ促進制度よりも優遇されている点となります。

参考までに大企業向け・中堅向けの賃上げ促進制度での税額控除率の最大は35%となっています。

賃上げ税制適用のための届出等は?

賃上げ促進税制の適用のためには、特段の事前の届出等は必要ありません。但し、上記で説明した「くるみん」「えるぼし」に係る上乗せ措置を適用したい場合にはそれらの厚生労働省による認定がされていることが当然必要となってきます。

また、法人税等の確定申告の際に適切に適用額明細書や申告書別表、特別控除に係る明細等を添付する必要があります。

中小企業向け賃上げ税制まとめ

いかがだったでしょうか。

今回は、2024年8月現在最新の賃上げ税制について大企業向けも含めた3つの制度の全体像からスタートして中小企業向けの賃上げ促進税制にフォーカスしてご説明をさせていただきました。

賃上げ等の一定の要件に適合する場合には、しっかりと税務申告時に計算・確認の上で別表等を記載して提出することで適用できる機会を逃さないようにしたいものですね。

特に中小企業向けの制度では新たに5年間の繰越しができる制度となっていますので継続してしっかり対応して節税をしていけると良いと思います。

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