事業別、部門別に業績を管理〜ただの全社決算では見えないもの

事業別、部門別に業績を管理する〜ただの全社決算では見えないもの 財務/経営管理コラム

決算書や通常の月次決算では足りない

決算書や通常の月次決算では足りないもの

決算書だけで経営管理や業績評価は難しい

経営者や事業責任者が、決算書だけで事業の状況を十分に把握するのは現実には難しいものです。

例えば、決算書だけでは、「何が上手くいったから業績が改善したのか?」がわかりません。

・どのような顧客に対して、どのような営業政策をとったから販売が伸びたのか?
・顧客全体に対してどのようなサービスや製品の販売が伸びているのか?
・どのようなサービスや製品の販売が落ち込んでいるのか?
・どの営業部門が成果を上げて、どの営業部門が業績を下げたか?

これらを把握することは難しいのではないでしょうか。

決算書や月次決算書で結果は見えるが・・・

もちろん決算書として、会社全体の損益計算書(PL)や貸借対照表(BS)を見ていくことは重要です。

会社の財務の状況を把握し、全体としての利益や売上高を把握することができます。

決算書をしっかり見て、毎期、会社に残る税引後利益を着実に積み上げることも重要です。

しかし、これらの数値を改善していくツールとしては、決算書や月次決算だけでは足りないのが現実です。

まず売上高/粗利を経営の視点で分解

まずは売上高/粗利を、経営の視点で分解する

売上高/粗利を、事業別、部門別、製品サービス別など分解

販売管理の視点で事業別等に分解

それでは販売管理を別途やればいいのでは?

ここまで書いてきたら、このように思う方はいるかもしれません。これは、ある意味、正解です。

販売管理で、事業別、顧客別や製品サービス別、部門別で見れるようになっていない場合には、まずはそこからスタートすることは合理的だと思います。

まず売上高、次に粗利を事業別等に

売上高を、事業別、顧客別(顧客タイプ別)、製品サービス別(製品サービス種類別)、部門別などの切り口で、定期的に、集計して確認するなど。

もし、卸売業や製造業など、販売する製品や商品の原価を合わせてデータ管理できる場合には、それらの切り口で、粗利を分解して確認できるとなお良いでしょう。

経営者の視点で必要な切り口を絞り込む

分解でアクションが見えやすくなる

売上高や粗利などの、財務数値を、経営者の視点で分解することで、今後のアクションが見えやすくなります。

どの顧客タイプへの販促を重視すべきか?
どの製品サービス種類を拡販すべきか?
どの部門の運営を見直すべきか?

など。もちろん、どんな会社でも同じように全ての切り口で見る必要があるわけではありません。

必要な切り口を絞り込む

必要な切り口は業種や事業の規模、経営方針によっても変わります。

むしろ経営に不要な切り口の数値を沢山並べてしまうと、結局、大事な数値がどれか分かりにくくなってしまいますので逆効果です。

まずは、経営者や事業責任者の視点から、事業を成長させるためのアクションを考えられるように最低限の必要な切り口に絞って見れるようにする。これが最優先です。

事業責任者やチームを動機づける

動機づけの材料

経営者や事業責任者が、今後のアクションのヒントを得る材料とする以外にも、財務数値を分解して見れるようにすることには重要な目的があります。

それは、事業責任者やチームを動機づける材料とすることです。

事業責任者やメンバーの動機づけ

例えば、会社が営む事業が複数あり、さらに、その事業ごとに責任者をつけてチームを分けているケースで考えてみましょう。

その場合、事業別の売上高や粗利は、事業責任者や事業メンバーの動機づけに必要なものとなります。

部門責任者やメンバーの動機づけ

同様に、営む事業が一つであったとしても、営業部門を複数に分けている場合もあります。

その場合、部門別の売上高や粗利が、部門責任者や部門メンバーの動機づけに必要なものです。

マトリクス的な管理運用も

会社によっては、複数の事業が、複数の営業部門に横断的に運用されている、マトリクス的な(格子的な)管理運用をされている場合もあります。

その場合は、事業別 x 部門別のマトリクスで数値を見れるようになっていると便利です。

財務数値での動機づけ時に注意すること

財務数値での動機づけ時に注意すること

結果が悪くても、担当者のパフォーマンスと関係ないこともある

動機づけや業績評価の際の注意点

但し、部門やチームの動機づけや業績評価に、部門別や事業別の売上高や粗利を使う際には注意が必要です。

それは売上高や粗利が伸びたり下がったりしているのが、部門責任者やメンバーの行動や能力が理由か?というと、そうでないケースがあるからです。

誤った業績評価は人を失望させる

例えば、事業を行っている市場全体が成熟しており、縮小傾向にあるときは、どんなに部門責任者やメンバーが努力をしても能力があっても数値を伸ばすのは至難の技です。

そんな時に、数値が伸びていないことを、部門責任者やメンバーの業績評価として低い評価をしてしまっては問題です。

それでは優秀でやる気のある人材を失望させ、離職させてしまうことにも繋がります。

実態に合わない評価や昇格も問題

外部要因の追い風で伸びている場合

逆に、事業を行っている市場や環境がとても好調だったり、その他、従業員のパフォーマンスと関係ない外部要因で追い風の場合もあります。

その場合には、特に正しい努力をしていなくても、数値が伸びることがあります

誤った高評価や昇格も問題

大して努力をしていなかったり、十分な能力を持っていない責任者やメンバーを、追い風だけで高評価して重要なポストにつけたり報酬を増やしたらどうでしょう。

これもまた、実態が見えている優秀な人材を失望させ、離職させる結果となります。

見当違いな信賞必罰はモラルを下げる

離職をせず残るメンバーの間にも、経営者の信賞必罰が、見当違いなものだという印象が強くなると問題です。

それでは、社内のモラルは下がり、メンバーのモチベーションは低いものとなる可能性があります。

財務数値を絶対視しない、先行指標に目を配る

そういった意味では、非常に難しいものがあるのですが、財務数値とその分解は、絶対視はしないことが重要です。

あくまでも経営者が次のアクションを考えるための材料として使うことを最優先するというのが一つです。

定性的な評価だけでは動機づけが弱い

とはいえ、部門やメンバーの業績評価を全て定性的な評価だけで行うことも、動機づけの点では弱いと考えられます。

このため、経営者のかたが、よく考えて、部門責任者やメンバーの業績評価にフィットする数値を選んで絞り込むことが一つです。

行動につながる指標を優先

また、一つの考え方は、業績評価については、財務数値の分解よりも、将来の財務数値の改善につながる行動の指標を優先して設定することです。

また、その際には、ただ単に責任者や担当者が任された仕事の範囲でパフォーマンスが高かったかどうかと言う視点でなく、

経営者が考える方向に、組織を引っ張るための動機づけと言う視点を取り入れることも重要です。

伸ばしたい方向へ促す

例えば、今後、会社全体として伸ばしたい分野により注力するような行動を高く評価することを約束すれば、責任者やメンバーは自然と、その分野に注力するように動機づけられます。

個人プレーで個人の目の前の売上高を伸ばすような行動を控えさせ、部門やチーム、会社全体の利益(中長期的な)につながるような行動を動機づけるような視点も必要です。

事業別、部門別の限界利益、P/Lを見える化

事業別、部門別の限界利益、P/Lを見える化する

今までのお話で、財務数値を部門別や事業別、製品サービス(タイプ)別、顧客タイプ別などの経営視点での切り口で管理することのメリットや注意点を説明させていただきました。

その際に、一旦上記では、売上高や粗利をこれらの切り口で管理することを最初のステップとして書かせていただきました。

しかし、もちろん、事業別などの切り口で粗利だけでなく限界利益を見れるようにすること、さらにはP/Lを作ることにも意義があります。

事業別に限界利益を確認

限界利益とは

ここでいう限界利益とは、粗利から、販管費のうちの変動費を差し引いたものです。

販管費のうちの変動費的な性質のものというと、例えば、広告宣伝費や販売促進費、運送費などが考えられるでしょうか。

限界利益から今後の予測に繋げる

限界利益を見るメリットは、費用を固定費と変動費に分ける(固変分解する)ことで、いくら売上高を上げたらいくら利益が残るか、ざっくりと今後の予測を立てられるようにすることです。

売上高に連動しやすいものかどうか

このため、限界利益を見るために設定する「変動費」は、ただ固定していないものというよりは、売上高に連動して上下しやすい性質の費用をピックアップすると良いでしょう。

例えば、上記の広告宣伝費や販売促進費、運送費なども、会社の取り扱っている費用の実際の性質がどうなっているか確認します。

その結果、売上高に連動しにくいものであれば「変動費」から外して考えるのも一つです。

事業別の収支シミュレーションにつながる

事業別に粗利だけでなく限界利益まで見れるようになれば、事業別の収支のシュミレーションをしやすくなります。

事業別の損益分岐点をざっくりと予想することや、会社の事業計画を作る際にも役に立ち事業計画と予実管理を同じ切り口で分析できるというメリットもあります。

事業別のP/Lを営業利益の段階まで作る

事業別P/Lが必要となるステージ

もし、事業別の限界利益だけでは足りない、もっと詳しく事業別の損益を見たいということであれば、事業別のP/Lを営業利益の段階まで作るというのが一つです。

事業別P/Lで必要な手順

このためには、第一に、変動費以外にも事業に直接紐づけられる費用を集計の上、第二に、事業共通の経費を、各事業に按分(配賦)する計算が必要となります。

按分計算はあくまでも一定の仮定を置いて表面的に按分する形にはなります。

このため、直接事業に紐付けて把握できる費用と比べるとあくまでも仮の試算といった性質にはなります。

事業共通の経費としては、例えば、経理や総務、法務などのいわゆる本社機能の部門や機能の費用があります。

それ以外にも、共通で利用する施設(オフィス等)がある場合の費用按分などが考えられますね。

事業別P/Lのメリット

事業別のP/Lを作ることのメリットの一つは、会社全体として利益を残すために、事業別に稼がなければいけない利益の水準がハードルのように見えることです。

逆にいうと、上記の通り、仮定計算で費用を按分した結果の損益数値となりますので、按分計算自体でミスリードしないように設定する必要もあります。

また、その結果出てきた数値にも、ある程度割り切って参考数値として扱うことが重要です。

業績評価の直接的な指標としてしまうと、事業責任者にとっては自身では管理できないものが入る点が気になるでしょう。

例えば、自身のパフォーマンスとは関係のない数値の影響が沢山入ってしまったものとなりますので、注意が必要です。

メリットはあるものですので、上手く使い方を間違えなければとても有用なものとなると思います。

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