源泉徴収「納期の特例」はメリットあり。常時10人未満にも注意!

基本的な税務実務

法人や個人事業主が給与や報酬等を支払う際、所得税の源泉徴収をする必要があります。

特に創業から間もない場合には「納期の特例」も含め源泉徴収について以下の点の注意が必要です。

・源泉所得税納期限給与等支払翌月10日
納期限経過で源泉徴収義務者ペナルティ
納期の特例を申請で年2回まとめて納付
納期の特例給与支給人員常時10人未満
7/10と1/20納期の特例での納付期限
・原稿料やデザイン料等報酬や配当は対象外
納期の特例申請後すぐには適用されない
・給与支給人員常時10人以上に変化で届出

より具体的にどのような点に注意すれば良いか説明していきます。

源泉所得税の納付期限(納期)

原則的な源泉所得税の納付期限

源泉所得税の原則的な納付期限

法人等が源泉徴収した所得税の納期限はどうなっているでしょう。

原則、給与や報酬支払い月の翌月10日までが納期限

これは、原則、源泉徴収の対象となった給与や報酬等を支払った月の翌月10日となります。

例えば月末に給与や報酬等の支払いを行なった場合には、翌月の源泉所得税の納期限まではわずか10日しかありません。

タイトな納期のため、注意が必要

このため、実務的には、かなりタイトな納付期限のスケジュールとなっています。

この「10日」というのは、月初から10営業日ということではありません。

4月10日、5月10日といった毎月の「10日」にあたるため、月初に祝日があるゴールデンウィークなどの場合、あっという間です。

注意が必要ですね。

源泉所得税の納付期限に間に合わない場合

納付期限に納付できなかったら

源泉徴収義務者がペナルティを受ける

納付期限までに源泉徴収した所得税の納付ができない場合、どうなるでしょうか。

その場合、源泉徴収義務者はペナルティを受けます。ペナルティは、不納付加算税、延滞税の2種類の罰金となります。

これらを元の要納付額に上乗せして納付する必要があります。

ですので納付期限を忘れたりして納付が遅れると無駄な出費につながってしまいます。

しっかりとスケジュールを管理して納期限内に納付するようにしたいですね。

「納期の特例」の条件とメリット

納期の特例の条件

上記の原則に対し、納期の特例というものがあります。

給与の支給人員が常時10人未満の源泉徴収義務者に限り、納期の特例を申請することができます。

納期の特例の適用を受けると、どんなメリットがあるのでしょう。

納期の特例のメリット

年に2回にまとめて納付が可能

納期の特例の適用を受けると、給与や退職手当、弁護士や税理士等の報酬や料金について、毎月でなく年に2回、まとまったタイミングで納付することができます。

7月10日と1月20日までの年2回の納期

この場合、対象となる分は、1月から6月に支払った分は、7月10日が納付期限です。

7月から12月に支払った分は、1月20日までが基本的に納付期限となります。

一部報酬や配当は「納期の特例」対象外

但し、「納期の特例」の申請をしても、全ての源泉所得税が対象となるわけではない点に注意が必要です。

原稿料、デザイン料など一部の個人への報酬や配当にかかる源泉所得税などは対象外となります。

「納期の特例」の申請と適用

納期の特例の申請方法

納期の特例の申請方法

納期の特例の適用を受けるためには、「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を税務署に申請する必要があります。

提出期限はないが、すぐに適用はされない

納期の特例については申請の提出期限が決まっているわけではありません。

但し、注意点としては、申請してすぐに適用されるわけではないことです。

翌月に支払われる給与や一定の報酬から適用される点です。

翌月の納付分からではなく、翌月に支払われる給与等から納期の特例が適用されます。

ですので、原則適用の場合の翌々月の納付分からの適用となります。

申請後、適用開始時期との関係 例

3月中に「納期の特例」を申請した場合を考えてみましょう。

申請した月に支給する給与は、原則通り翌月10日期限

3月中の給与支給→4月10日(原則適用)までに源泉所得税を納付する必要があります。

3月中の「納期の特例」の申請は、翌月の4月に支払われる給与等から適用されます。

このため、3月中に支払われる給与等に係る源泉所得税にはまだ申請の効果が及ばないためとなります。

申請した月の翌月以降に支給する給与から特例が適用

4月中の給与支給→7月10日(特例適用)までに源泉所得税を納付する必要があります。

3月中の「納期の特例」申請は、翌月の4月に支払われる給与等から適用されます。

4月中に支払われる給与等に係る源泉所得税に適用されます。

1月から6月に支払った分は7月10日が納付期限となります。

設立すぐに納期の特例を申請した場合

会社を3月中に設立し、その3月中に「納期の特例」を申請した場合はどうでしょうか。

設立のタイミングですぐに申請した場合にどうなるか一緒に見てみましょう。

3月中の給与支給→4月10日(原則適用)までに源泉所得税を納付する必要があります。

4月中の給与支給→7月10日(特例適用)までに源泉所得税を納付する必要があります。

会社設立時でも特別な扱いはない

結果、会社設立時だからといって変わりはありません。

納期の特例は、あくまでも申請の翌月支給給与分の源泉税を翌々月に納付する際から適用されます。

それまでの分は原則の期限が適用されることになります。

一瞬、会社設立のタイミングで申請をしたら初月分から適用されるのではないかと期待するところですが、そういうことにはならない点に注意が必要ですね。

「納期の特例」適用後に途中で外れる場合

納期の特例に途中から外れる場合

但し、適用申請時に給与の支給人員が常時10人未満であっても、その後10人以上となった場合、納期の特例を使えなくなります。

この点も注意が必要です。

届出の税務署への提出が必要

その場合、「源泉所得税の納期の特例の要件に該当しなくなったことの届出書」を税務署に提出する必要があります。

この場合、当該届出を出した月以降の給与支払い分は原則通り翌月までに納付が必要となります。

当該届出を出した月の前月までの給与支払い分は届出を出した月の翌月までの納付が必要となります。

届出と納付期限の設例

例)3月中に届け出した場合はどうでしょう。

1〜2月支給給与支払い→4月10日(届出の翌月)までに源泉所得税納付します。

3月以降給与支払い→翌月10日までに源泉所得税納付が必要です。

給与の支給人員が常時10人未満とは

日雇い従業員の雇用が常態化している場合は注意

例えば建設業などの日雇い従業員の雇用が常態化している場合においては注意が必要です。

常勤の従業員が8名だが、日雇い従業員を加えると10人以上になる場合、常時10人未満の要件を満たさないと判定されます。

平常の状態で給与支給人員の数が10人未満

所得税法基本通達216-1において、「給与の支払を受ける者の数が平常の状態において10人未満であるかどうかにより判定する」とされています。

このため、日雇い従業員が平常時からいるのが通常であれば、この数も計算に含めて判断することになります。

すなわち、常時10人未満とは認められないことになります。

特別なタイミングでのみ日雇い従業員を雇う場合

逆に日雇い従業員を雇うことが平常時にはない場合はどうでしょうか?

特定のタイミングでのみ臨時的に日雇い従業員を繁忙期対応などで雇う場合には、日雇い従業員をカウントしない状況で10人未満か否か?で判断することになります。

納期の特例の「取りやめ」はできる?

上記では「納期の特例」が、その前提条件を満たさなくなって適用できなくなるケースについて説明してきました。

これに対して、自主的に納期の特例の「取りやめ」ができるのかが気になるところかと思われます。

実質5ヶ月分の納期限の延長が、納期の特例

要するに、1月から6月までに源泉徴収した分を7月10日までに支払うのではなく、

原則の1月に源泉徴収した分は2月10日まで、2月に源泉徴収した分は3月10日までに支払う方法に戻すことができるのか?という論点です。

期限が延長されているが、早く払うことに制限はないという解釈

こちらについては、上記をお読みいただくと既にお気づきかと思います。

納期の特例は実質的に半年分のうちの5ヶ月分について納付期限を延長する施策となっています。

このため、原則通りに、先に支払いたければ、特に届出をすることなくそのまま原則通りに早く払って問題ないという解釈があるようです。

以前国税庁HP掲載の「取りやめ」届出は別のもの

国税庁のHP上で検索すると、以前は、「納期の特例適用者に係る納期限の特例の取りやめに関する届出書」が掲載されていました。

但し、こちらは「納期の特例」の適用自体の「取りやめ」の届出はなかったようですので注意が必要です。

「納期の特例」の制度には、以前、年に2回の納付期限のうちの現在1月20日となっている期限が、1月10日となっている時代がありました。

その時代に、1月10日の期限を1月20日に調整するための特例が、「納期の特例適用者に係る納期限の特例」だったわけです。

つまりこの古い時代の、納期の特例のさらに特例・・・についての取りやめの届出が上記のものですので、現在の法令に適用したものではないと考えられます。

要件に該当しなくなったことの届出書での連絡

上記のように、特に国税庁のHPでは、現在、「納期の特例」自体を取り止めたい場合の届出は説明されていないように思われます。

但し、法人の側で、自主的に取り止めたいと考え、それを当局に伝えたいという意思がある場合には、

あえて、「源泉所得税の納期の特例の要件に該当しなくなったことの届出書」を本来の使用目的と違いますが使用するという選択肢もあるかもしれません。

この辺りは税務署の担当者によっても反応が異なる可能性があります。

管轄の税務署に問い合わせの上、上記の届出書の記載欄等にその旨を記載の上で届出るということも一つかとは考えられます。

前提となる源泉徴収の仕組み

源泉徴収の仕組みと義務

源泉徴収とは

源泉徴収とは、簡単にいえば、給与や報酬等を支払う側が所得税の納付の代行をする仕組みです。

給与や報酬を支払う際に、あらかじめ所得税分を差し引いて支払います。

その上で、預かっていた所得税分を給与や報酬を受け取る者に代わり、まとめて納付するのです。

源泉徴収で一般個人や税務署の事務負担が減る

通常であれば後から給与や報酬を受け取る個人が税金を払うところですが、それだと一般の個人が税務申告をして納税をすることになり負担がかかります。

同時に、税務署側にとっても事務対応が増え、税金の徴収も手間ですし、税金の納付が進まない一般個人もいるかもしれません。

そこで、この源泉徴収の仕組みが考えられたと思われます。

源泉徴収の対象の3分類

源泉徴収の対象となる報酬等に範囲については、簡単にいうと以下の3つとなります。

・従業員や役員への給与等の支払い
・特定の個人事業者等(士業含む)への報酬・料金等の支払い
・利子や配当等の支払い

個人相手の報酬等の支払いは対象となる

法人に対して業務委託費を支払う際には、源泉徴収は通常発生しません。

しかし、上記のように相手が個人の場合には、支払う側が支払う際に、税金分を引いて預かった上で納付することになります。

国や地方としても、確実に税金を徴収でき、まとめて徴収をしてもらうことで効率化が期待できます。

支払う側にとっては、源泉徴収をすることが義務付けられていますので、源泉徴収のし忘れには要注意です。

個人事業主も給与等を支払う場合は通常必要

個人事業主の場合でも、従業員を雇い給与等を支払う場合には、一定の認められた場合を除き、源泉徴収義務が発生します。

一般的には、個人事業主のかたでも従業員を雇って拡大していく場合には法人化するケースも多いです。

このため、法人設立後にはじめて源泉徴収のやり方が気になったという方も多いのではないでしょうか。

源泉所得税の計算方法

従業員への給与にかかる源泉所得税の計算には、国税庁が発表する給与所得の源泉徴収税額表を使って税額を確認します。

個人へのデザイン料や講演料などの報酬は、支払い金額に所定の率を掛けて、源泉徴収すべき所得税額および復興特別所得税の額を計算します。

なお、報酬の支払い金額が、100万円を超える場合には、掛ける率が増加し、かつ率を掛けた後に加算する金額があります。

いずれにせよ国税庁の発表する最新の計算方法を確認して計算を行う必要があります。

納期の特例と源泉税まとめ

源泉所得税まとめ

いかがだったでしょうか。

源泉徴収は上記の通り納期の特例も活用することで、事務対応を省力化することが可能です。

ぜひ活用したいですよね。

ただし、納期の特例の対象として認められる範囲かどうか?

申請をした場合にもいつから適用されるか?

・・・これらは意外と難しい部分があります。

本記事をきっかけに信頼できる税理士に相談して進められるのと良いと思います。

本記事をヒントとしつつも詳細な対応についてはぜひ慎重に税理士とも相談ください。

また最新の情報も確認のうえ、ご検討ください。

(一旦、上記は2024/5/4時点の情報をもとに記載をしております)

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