基本的に毎年、税務署に提出しなければならない書類で、申告書以外の重要なものといえば、「法定調書」です。
毎年の同じ時期に基本的に提出するものですので、スケジュールを把握の上、十分な時間をとって忘れずに対応したいものですね。
こんな法定調書について、意外と何となく毎年のルーチンとして対応されている経理担当者の方もいらっしゃれば、新たに創業した会社の経営者の方でこれから始まる手続きについて戦々恐々とされている方もいらっしゃるかもしれません。
今回は法定調書について、概要から始めて、記載内容や、提出時期、作成する際に注意した方が良いポイントなど、合わせて説明していきたいと思います。
それではぜひよろしくお願いいたします。
法定調書とは?
法定調書の提出期限
法定調書とは、原則、毎年1月31日までに税務署へ提出が必要な書類です。
給与や退職金、報酬や契約金などを支払う場合に、法定調書を提出する必要があります。
但し、法定調書は申告書と異なり、直接、提出者の課税に関係するものではありません。
法定調書の目的
それでは法定調書の目的は何でしょう?
それは、税務署が、給与や退職金、報酬や契約金等を支払った事実を把握するためです。
これにより、それらの金銭等を受け取った法人や個人側が、税務申告にきちんとその事実を反映していることをチェックができます。
このような理由で、法定調書を提出することが求められているものと考えられます。
法定調書の根拠となる税法
これが実は結構多いのです。
法定調書の根拠となる税法は以下です。
・「所得税法」
・「相続税法」
・「租税特別措置法」
・「内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等にかかる調書の提出等に関する法律」
これらの法律の規定により令和5年4月1日時点で、実に63種類の法定調書があるとされています。
法定調書の種類
通常、個々の会社や個人が提出しなければならない法定調書の数は、そこまで多くなりませんのでご安心を。
主なものは以下の通りです。
・給与所得の源泉徴収票
・退職所得の源泉徴収票
・報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書
・不動産の使用料等の支払調書
これらの法定調書について以下に一つずつ説明していきます。
給与所得の源泉徴収票
給与所得の源泉徴収票の概要
給与所得の源泉徴収票は、給与等を支払った役員や従業員等の全員に、支払ったものが交付する必要があるものです。
この給与等の源泉徴収票のうち、一定の要件に合致するものだけを法定調書として税務署へ提出する必要があります。
そして、この税務署へ提出が必要なものの範囲ですが、①年末調整をしたもの、②年末調整をしなかったもの、この2つの区分で、異なる条件が定められています。
源泉徴収票のうち年末調整をしたもの
たとえば、年末調整をしたものについては、以下の3つに分けて、提出が必要となる支払金額の水準が定められています。
・法人の役員に対するもの、
・弁護士等特定の外部専門家に対するもの、
・それ以外に対するもの、
源泉徴収票のうち年末調整をしなかったもの
一方、年末調整をしなかったものについては、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出しているか否か。
この区分で分けて、提出が必要となる支払金額等の要件が定められています。
退職所得の源泉徴収票
退職所得の源泉徴収票も、給与所得の源泉徴収票の扱いと少し似ていますこちらも、まずは、退職金等を支払った役員や従業員等の全員に交付する必要があります。
その上で、一定のものだけを法定調書として税務署へ提出することが必要となります。
一方、退職所得の源泉徴収票のうち法定調書となるものの基準は、少しシンプルです。1年間(12月末まで)のうちに支払が確定したもので、法人の役員に対して支払う退職手当等が対象となります。
このため、通常の従業員に対して支払う退職金にかかる源泉徴収票は、法定調書として税務署へ提出する必要がありません。
報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書
支払調書の概要
こちらは上記に比べるとかなり幅広いです。一定の業種の報酬や料金、たとえば、
外交員や集金人、ホステス等の報酬・料金、
弁護士や税理士に対する報酬、
作家や画家に対する原稿料や画料、
・・・など、について、それぞれ一定の支払金額を超えるものが対象となります。
具体的には国税庁では以下のものを提出範囲として示しています(2024年4月時点)。
分類 | 支払調書提出が必要となる範囲 |
---|---|
外交員、集金人、電力量計の検針人およびプロボクサー等の報酬・料金 | 同一人に対する1月から12月の1年間の支払金額の合計額が50万円を超えるもの |
バー、キャバレー等のホステス等の報酬・料金 | 同上 |
広告宣伝のための賞金 | 同上 |
馬主に支払う競馬の賞金 | 同一人に対する1月から12月の1年間に1回の支払賞金額が75万円を超える分の支払を受けた者が対象。 その場合に、その1月から12月の1年間のすべての支払金額が対象 |
プロ野球の選手などに支払う報酬、契約金 | 同一人に対する1月から12月の1年間の支払金額の合計額が5万円を超えるもの |
弁護士や税理士等に対する報酬、作家や画家に対する原稿料や画料、講演料等 | 同一人に対する1月から12月の1年間の支払金額の合計額が5万円を超えるもの |
社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬 | 同一人に対する1月から12月の1年間の支払金額の合計額が50万円を超えるもの |
実際に支払調書を作成する際には、国税庁の情報を直接確認したり税理士に相談するなどして頂く必要がありますが、一旦大まかにイメージを掴む参考としていただければ幸いです。
対象となるものは「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」として税務署への提出が必要となります。
対象範囲が幅広いため、注意が必要ですね。
支払調書の支払い金額
支払調書の支払い金額は、1月から12月の1年間に支払いが確定したものを記載します。
また、支払調書の作成日時点で未払いの金額がある場合も支払金額として記載することに注意です。
但し、未払いの金額がある場合には、支払調書の上段に未払額を内書きすることが求められています。
支払調書の源泉徴収税額欄
また、支払調書の源泉徴収税額の欄には、1月から12月の1年間の間に、源泉徴収することが必要な所得税及び復興特別所得税の合計額を記載します。
この際にも、支払調書の作成日時点で未払のものがあることによって、源泉徴収することが必要な所得税及び復興特別所得税を徴収していない時には注意が必要です。
その場合、その未徴収税額を見積もった上で内書きすることが求められています。
支払調書の提出と源泉徴収
加えて、法人に対して支払われる報酬や料金等で源泉徴収の対象とならないものがある場合や、
支払金額が源泉徴収の限度額以下であることで源泉徴収をしていない報酬・料金等がある場合においても、
支払調書の提出範囲に該当する場合には、支払調書を提出する必要がある点に注意が必要です。
支払調書の提出範囲と消費税
支払調書の提出範囲の金額を判断するに当たっては、消費税及び地方消費税の金額を含めて判断することになります。
但し、消費税及び地方消費税の金額が明確に区分されている場合には、その金額を含めずに(税抜きで)判断しても問題ないとされています。
不動産の使用料等の支払調書
法人や不動産業者である個人は、不動産の使用料等の支払調書を提出することになります。
但し、全ての不動産使用料等が対象となるわけではありません。
同一人に対する年間の支払金額の合計が15万円を超えるもののうち、一定の条件を満たすものが提出の対象とされています。
すなわち、15万円以下のものは、その時点で対象外となります。
そして、「一定のもの」については、細かく条件が定められています。
たとえば、法人に対して支払う不動産の使用料等のうち、賃借料は対象外となります。権利金や更新料等が対象となります。
法定調書合計表の提出
法定調書合計表の提出
上記の通り、法定調書には異なる種類のものがあります。
しかし、これらの法定調書を提出する際には、「法定調書合計表」を一緒に税務署へ提出する必要があります。
この合計表は「給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表」というものです。
法定調書合計表の記載欄
こちらは、以下のように記載欄が分かれています。
①給与所得の源泉徴収票合計表
②退職所得の源泉徴収票合計表
③報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書合計表
④不動産の使用料等の支払調書合計表
⑤不動産の譲受けの対価の支払調書合計表
⑥不動産の売買又は貸付けのあっせん手数料の支払調書合計表
法定調書合計表の書き方
それぞれ、ただ単に提出対象となった法定調書の合計金額や人数だけを記載するのではない点に注意が必要です。
法定調書の提出対象となっていない分の金額や人数の合計額も記載する必要があります。
その上で、そのうち法定調書として提出する分の金額や人数の合計額を記載する。
基本的に、このような形式となっています。
これによって税務署側は、法定調書を提出している分以外も含めた全体像も把握することができます。
その上で、法定調書提出分の割合も確認することで、
・法定調書提出分が著しく低い状況となっていないか?
・本来出すべきものが提出されていないのではないか?
こういった観点で税務署は確認をしていると思われます。
給与支払報告書を市区町村へ提出
給与支払報告書とは
給与支払報告書は、給与所得の源泉徴収票と基本的には同じ内容のものです。
但し、こちらは税務署ではなく、市区町村へ提出する必要があります。
また、税務署へ提出する法定調書としての源泉徴収票と、範囲が異なります。
こちらの給与支払報告書では、原則、給与所得者のすべての分について作成と提出が必要です。
税務署へ提出する法定調書のように年末調整の有無等によって一定の基準以上の分だけを提出するような仕組みではありません。
こちらは基本的に全てを提出する点に注意しましょう。
なお、給与支払報告書は、個人別明細書と総括表の2つから構成されています。
それぞれ見ていきましょう。
個人別明細書-給与支払報告書
個人別明細表は、給与支払報告書のうち、従業員1人について1枚の作成を行うものです。
そして、記載する内容は基本的に源泉徴収票と同じです。
従業員の氏名や住所、給与の金額や保険料の控除額などを記載することになります。
総括表-給与支払報告書
総括表は、個人別明細書をまとめた表紙のような位置付けです。
提出先の市区町村において、会社から提出された個人別明細書の数につながる「受給者総人員」数や、「報告人員」数を記載します。
報告人員数には、特別徴収対象者(※)、普通徴収対象者(退職者)、普通徴収対象者(退職者を除く)の内訳も記載します。
※特別徴収とは、会社が従業員の給与支払時に住民税分を差し引いて支払い、代わりに納付するという一般的な方法です。
※普通徴収は、逆に、給与から差し引かずに本人が直接納付する方法で、特別徴収よりも実際には少ない方法となります。
法定調書を未提出の際の罰則
これらの法定調書や給与支払報告書は、税務申告書ではありません。
このため、これらを未提出の場合、税務申告書を提出しなかった場合の扱いとは少し異なります。
但し、提出しなかった場合には罰則、つまりペナルティがあります。
それぞれのペナルティの概要を確認していきましょう。
法定調書の罰則・ペナルティ
所得税法において、法定調書を提出期限までに提出しなかった場合や、虚偽の記載や記録をして提出した場合、1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処するとされています。
給与支払報告書の罰則・ペナルティ
地方税法において、給与支払報告書、届出書を提出しなかった者、又は虚偽の記載をして提出した者は、1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処するとされています。
法定調書のまとめ
いかがだったでしょう。
法人や個人事業を経営していく上で、必要となる法定調書の全体像について、まずは大きなイメージがわけば幸いです。
実際にこれらの法定調書を、経営者の方が全て細かく把握して対応するのは、時間の関係からもなかなか難しいかもしれません。
このため、経理者にこれらの対応を任せたり外部の専門家にアウトソースをするというのも現実的です。
それでも、法定調書の全体像を把握しておくことに意味はあります。
法定調書がなぜ必要とされており、提出しない場合にどんなペナルティがあるのか?など大きなポイントをまずは押さえておくことがおすすめです。
特に会社を設立して創業期の会社の場合などでは、社内で経理担当者を持ったりすることがなかなか難しいケースが多いと思いますのでぜひ注意していただければと思います。
会社設立や法人化の際にこのあたりの一連の税務の流れを把握されるのはとても大切ですね。