事業所税は事業税と名前が似ていますが、全く別の税金です。
そして、事業所税が課税される対象都市は限られていて、一定の規模の免税点を超えなければ、課税されないのも特徴です。
このため、いつから事業所税が課税対象となるのかはポイントとなります。
特に事業所税は従業者割と資産割に分けて税金計算を行い、免税点も判定するという性質があります。
事業所税の税金がどのような前提で変化するか知っているかどうかで税額が変化してしまう可能性もあります。
このような点を含め事業所税について解説していきたいと思います。
事業所税とは
事業所税の目的と概要
事業所税とは、大都市の都市環境の整備・改善に関する事業に要する費用に充てるために課税されるものです。
そして、事業所税では、基本的に、事業所の床面積や従業者の給与総額を基準として課税が行われます。ここでいう「事業所」とは、事務所や店舗、工場、倉庫などが該当するものです。
これらは、法人や個人が所有して使用しているものだけでなく、借りて使用しているものも含まれます。
特定の対象都市で限定して課税される
そして、事業所税は日本の全ての市町村で課税されているものではなく、特定の対象都市(市区)に限定して課税されている税金です。
具体的には、東京都や政令指定都市、人口30万人以上の政令で指定する市、などを対象都市としています。
このため、日本の全ての市町村で課税はされないものの、人口の多い都市はかなりカバーされています。
結果的に、多くの主要な都市で課税がされていると考えて良いでしょう。
事業所税と事業税は全く違う!
ここで注意なのですが、事業所税と事業税とは全く違う種類の税金です。
漢字も1字違いと似ているのですが内容は全然違いますので注意ください。
都道府県レベルか、市区レベルか
まず、事業税は、事業を営む法人や個人に対して、都道府県の単位でかかる税金です。
これに対して、事業所税は、都道府県より小さい単位である市区の単位でかかる税金です。
対象地域の範囲が限定されているか、いないか
次に、事業税は、事業を営む法人や個人であれば、日本全国どこに事業所があっても課税対象となります。
これに対して、事業所税は、人口30万人以上の政令指定都市など特定の指定された都市である市区に事業所等がある場合にだけ課税対象となります。
一定以上の規模だけ課税されるか、小さくても課税されるか
また、事業税は、事業を営む法人や個人であれば、事業の規模に関係なくかかる税金です。
外形標準課税など一定の資本金の規模以上の場合には計算方法が変わりますが、規模が小さくてもかかる税金です。
これに対して、事業所税は、事業所床面積や従業者数など一定の免税点の規模以上の事業を営む法人や個人だけが課税対象となります。
事業所税の申告期限
法人における事業所税の申告期限
事業所税の対象となる法人は、事業年度終了の日から2ヶ月以内が申告期限です。
それまでに事業所税の申告を行い、その上で納付を行う必要があります。
個人事業の場合の事業所税の申告期限
個人の場合は、事業を行った翌年の3月15日までが申告期限です。
それまでに事業所税の申告を行い、その上で納付を行う必要があります。
納付期限までに納付しなければ延滞金等が発生
なお、事業所税については、事業税や法人住民税のような、申告期限の延長制度はありません。
事業所税を納付期限までに納付せず、納付期限後に納付する場合は、納期限の翌日から実際の納付日までの期間の日数に応じて延滞金がかかりますので注意しましょう。
また、事業所税を申告期限までに申告していない場合には、原則、不申告加算金が課されます。
その他、修正申告等で事後的に税額が増加する場合には、過少申告加算金が課されます。
事業所税申告の対象となる法人や個人
事業所税申告が必要な3つのパターン
事業所税の申告書の提出が必要なのは、以下の3つのケースです。
・事業所床面積の合計が800平方メートルを超える場合、
・従業者数の合計が80人を超える場合、
・前事業年度に事業所税の税額があった場合
これらの場合に、事業所税の申告書の提出が必要となります。
事業所税申告の判定の単位
上記の判定の単位ですが、たとえば、大阪市の場合は、大阪市内の事業所等の合計について上記の基準を超えるかどうかで判断されます。
これに対して、東京23区の場合には、23区内全域の事業所等の合計で基準を超えるかどうか判断することになります。
申告の判定のタイミング
なお、これらの判定は、法人の場合は、事業年度末日の現況、個人の場合は、12月31日の現況によって行われます。
仮に事業所税の納税義務が発生しない場合(税額が0)であっても、上記に該当する場合には、事業所税の申告が必要となります(免税点以下申告)。
事業所税の納税義務が発生する法人や個人
事業所税の免税点
事業所等において事業を行う法人または個人に対し、以下の免税点を超える場合に事業所税が発生します。
・事業所床面積の合計が1,000平方メートルを超える場合、
・もしくは、従業者数の合計が100人を超える場合
上記の免税点の判定の単位は、申告対象の判定の際と同じです。
たとえば大阪市の場合は、大阪市内の事業所等の合計で、東京23区の場合は、23区内全域の事業所等の合計で、判定されます。
資産割と従業者割ごとに免税点を判定
なお、事業所床面積の合計が1,000平方メートル(免税点)を超える場合には事業所税の「資産割」が発生します。
また、従業者数の合計が100人(免税点)を超える場合は事業所税の「従業者割」が発生します。
このため、資産割か従業者割のいずれか一方だけが基準(免税点)を超え、もう一方が基準(免税点)を超えない場合には、基準を超える片方についてだけ単独で申告納付が必要となります。
免税点の判定のタイミング
事業所税のこれらの免税点の判定は、課税標準の算定期間の末日の現況により行われます。
但し、課税標準の算定期間中を通じて、従業者の数に著しい変動がある一定の事業所等については、特殊な計算が必要となる場合があります。
特殊関係者が同一の家屋で事業を行っている場合
法人や個人にとっての特殊関係者がいて、その特殊関係者と同一の家屋で事業を行っている場合、その特殊関係者の行う事業は共同事業とみなされます。
その結果、原則、納税義務(免税点)の判定は、共同事業を合算して行うことになります。
そして、実際に納めるべき事業所税の金額の計算においては、床面積や給与総額は切り分けて行います。
しかし、納税義務(免税点)の判定だけ合算して行うため、納税義務が発生しやすいので注意が必要です。
なお、ここでいう「特殊関係者」とは、親族その他の特殊の関係にある個人または同族会社とされています。
※特殊関係者の詳細な定義の説明を行うとかなり複雑なお話になるため、一旦、説明省略します。
ここでは概要を把握いただければ幸いです。
貸ビル等における納税義務者
貸ビル等の全部または一部を賃借して事業を行う場合、賃借して事業を行う方が事業所税の納税義務者となります。
逆に、貸ビル等の貸主は、その貸付部分については納税義務者とはなりません。
また、テナントなどの空室部分も課税対象とならないとされています。
但し、これらの状況を把握するため、貸ビル等の貸主の方は、貸付先や空室状況などを申告する必要があります。
事業所税の計算方法
事業所税の計算式
事業所税の計算は、基本的には、以下のような計算式で行います。
資産割の計算式
資産割額=(事業所床面積ーそのうち非課税分ー課税標準の特例)✖️600円
従業者割の計算式
従業者割額=(従業者給与総額ーそのうち非課税分ー課税標準の特例)✖️0.25%
非課税分とは
事業所税の課税の趣旨及び目的を勘案し、一定の非課税措置が設けられています。
上記の算式において、資産割や従業者割の計算上、非課税分を差し引いて計算することができます。
たとえば、保養所、食堂、売店、体育館など、事業主が従業員等の慰安、娯楽等の便宜を図るために常時設けている施設で直接事業の用に供されていないものがあります。
その場合は、「福利厚生施設」として、非課税対象施設とされています。
また、一定の基準を満たす、消防用設備等、特殊消防用設備等及び防災施設等も、非課税対象施設となります。
なお、実際の課税額の計算時だけでなく、納税義務(免税点)の判定においても、これらの非課税対象施設の床面積は含めずに判定します。
課税標準の特例とは
課税標準の特例とは、非課税措置と同じく、事業所税の課税の趣旨及び目的から、事業所税の軽減を図るために設けられたものです。
但し、こちらは非課税措置と異なり、そのもの全てが控除対象となるのではなく、一定の割合が控除対象となります。
たとえば、倉庫業者の営業用倉庫のうち一定のものは、その3/4が、資産割の計算において控除されます。
また、ホテル・旅館用施設のうち一定のものは、その1/2が、資産割の計算において控除されます。
なお、納税義務(免税点)の判定においては、これらの課税標準の特例が適用される前の事業所床面積により判定します。
この点も非課税対象施設と扱いが異なりますので注意が必要です。
その他、従業者割の対象とならない給与
従業者割の計算において、従業者給与総額には以下のものは含まれませんので注意が必要です。
・退職給与金、年金、恩給等
・障害者のうち一定の者(役員を除く)
・年齢65歳以上の者(役員を除く)
期間の中途で改廃された事業所等
原則は、前述のとおり、課税標準期間の算定期間の末日時点の事業所床面積が、資産割の課税標準とされます。
但し、課税標準の算定期間の中途において新設された事業所等や、廃止された事業所等、及び、新設されて廃止された事業所等については、その限りではありません。
課税標準の算定期間のうち新設されてからの期間や廃止されるまでの期間を考慮した一定の計算により、算定を行うことになります。
事業所税の対象都市
事業所税がかかる対象都市については上記では概要のみを一旦説明していました。
ここでは参考までにより詳しく事業所税がかかる対象都市をご説明します。(令和3年4月1日現在の情報として地方自治体から公開されているものとなります)
東京都及び政令指定都市(合計21都市)
東京都(特別区の区域)、札幌、仙台、さいたま、千葉、横浜、川崎、相模原、新潟、静岡、浜松、名古屋、京都、大阪、堺、神戸、岡山、広島、北九州、福岡、熊本
首都圏整備法の既成市街地を有する市(3市)
武蔵野、三鷹、川口、
近畿圏整備法の既成都市区域を有する市(5市)
守口、東大阪、尼崎、西宮、芦屋
人口30万人以上の地方税施行令で指定された市
北海道および東北地方(4市)
旭川、秋田、郡山、いわき
関東地方(14市)
宇都宮、川越、所沢、越谷、前橋、高崎、市川、船橋、松戸、柏、八王子、町田、横須賀、藤沢
中部地方(10市※)
富山、金沢、長野、岐阜、豊橋、岡崎、豊田、春日井、一宮、四日市
※四日市市は近畿地方で記載される場合もあり、東海地方(中部地方)と分類されるケースもあるようです。
近畿地方(9市※)
大津、豊中、吹田、高槻、枚方、姫路、明石、奈良、和歌山
※上記の注記と同様
中国、四国地方(5市)
倉敷、福山、高松、松山、高知
九州、沖縄地方(6市)
久留米、長崎、大分、宮崎、鹿児島、那覇
※ご自身や法人の営まれる事業所の都市が対象となるかどうかの正確な確認は、各地方自治体のHPや公開する情報等をご確認ください。
事業所税の損金算入時期
法人が納付する事業所税については、法人税の課税所得の計算上、原則として損金の額に算入されます。
その上で、事業所税の損金算入時期は、申告納税方式の税金であることから、納税申告書を提出した事業年度となります。
つまり、法人における事業所税の申告及び納付期限は上記でご説明したとおり、事業年度終了の日から2ヶ月以内です。
このため、事業所税の対象となる事業年度の翌事業年度に、損金算入することになります。
但し、製造原価、工事原価その他これらに準ずる原価に申告期限未到来の納付すべき事業所税が含まれている場合で、法人が同税額を損金経理により未払金に計上したときは、その事業年度に、損金算入することになります。
まとめ
いかがだったでしょうか。
事業所税は、事業所床面積あるいは従業者数が一定のサイズを超えた時に申告や納税が必要となるものです。
このため、事業が成長してきて規模が大きくなってきたらぜひご留意いただきたいと思います。
特に急成長されて従業者数などが事業所税の対象水準に伸びてくるようでしたらご注意ください。
なお、特定の市区に事業所をもつ法人や個人のみが対象となりますので、申告や納税の対象とならない場合も十分あります。
また、最初は対象外でも、事業の規模が大きくなってきたタイミングで、申告や納税が必要となることも十分考えられます。
このため、事業の成長の際にはぜひご注意いただければと思います。
まだ創業期だったり個人事業から法人化される会社の場合でも、ぜひ今後の成長の段階で関わってくる税金種類として頭においておいていただけるとよろしいかと思います。