会社設立時に社会保険の手続きは必須!一人社長の加入義務の誤解やペナルティにも注意。

会社設立時に社会保険手続きは必須! 基本的な税務実務

会社を設立した場合、健康保険や厚生年金基金、労働保険(雇用保険、労災保険)などのいわゆる社会保険に加入することが基本的に必要になります。

但し、社会保険を構成する保険の種類によって加入の要否を含め、扱いが微妙に異なります。加入手続きを怠れば会社はペナルティが与えられる面もあり、求められるそれぞれの手続きのポイントを抑えることはとても大切です。以下、順番に解説していきます。

会社設立時の社会保険への加入義務

まず、社会保険のうちの健康保険・厚生年金基金については、会社を設立する際に被保険者が1人以上となる場合、会社としての加入が義務付けられます。

一方で、社会保険のうちのいわゆる労働保険である雇用保険と労災保険については、会社設立の際に従業員が1人以上であれば、会社としての加入が義務付けられます。以下にもう少し具体的に確認していきましょう。

健康保険・厚生年金基金の加入義務

一人社長の法人でも加入義務対象

上述の通り、被保険者が1人以上の法人事業所は、健康保険・厚生年金基金への加入が義務付けられています。

例えば1人社長(役員のみ)で従業員がゼロであっても、一人社長が被保険者に該当することで加入義務対象となることが考えられます。

特に、正社員、法人の代表者、役員は、勤務時間等にかかわらず基本的に被保険者とされますので、1人社長はその時点で被保険者に該当することになると考えられます。

法人成りする前の個人事業主でも加入義務対象となる場合がある

なお、会社設立して法人成り(法人化)を検討されている個人事業主の場合、法人設立しなければ社会保険加入義務対象とならないかというと、そういうことでは必ずしもありません。

例えば、常時従業員を5人以上雇用している個人事業所も、農林水産業や一部のサービス業等などの例外を除くと、基本的に、健康保険・厚生年金基金への加入が義務付けられています。

つまり、法人成りで社会保険加入義務の是非が変わるかというと、ケースバイケースと言えます。

労働保険の加入義務

これに対して、労働保険である雇用保険と労災保険への加入は、従業員を1人でも雇用している場合に義務付けられることになります。

つまり、1人社長で従業員がゼロの場合には、会社設立したとしても雇用保険と労災保険への加入義務対象にはなりません。

なお、従業員がパートやアルバイト等である場合でも、以下のいずれにも該当する労働者の場合には原則として被保険者となりますので、対象となります。

・1週間の所定労働時間が20時間以上であること
・31日以上の雇用見込みがあること

(参考)厚生労働省 Q&A〜事業主の皆様へ〜Q1

健康保険・厚生年金保険加入時に必要な書類

上記の通り、会社設立時には、1人社長で従業員ゼロであっても健康保険・厚生年金保険への加入が必要となります。この際、会社としては加入のために年金事務所等へ各種届出が必要となります。

健康保険・厚生年金保険新規適用届出

まず、健康保険・厚生年金保険新規適用届出を、事業所の所在地を管轄する年金事務所(郵送等の場合は事務センター)へ提出することが必要です。

健康保険・厚生年金保険新規適用届出は、健康保険・厚生年金保険を新たに適用することとなる場合に提出する届出となります。当該申請書は日本年金機構のHPからダウンロードすることも可能です。

そして、当該届出の提出時には以下の添付書類も合わせて提出することになりますのでご注意ください。

添付書類

法人が健康保険・厚生年金保険新規適用届出に添付する書類は、以下となります。

・法人(商業)登記簿謄本(90日以内発行のもの)
・法人番号指定通知書のコピー
・事業所在地の確認できるもの
(事業所の所在地が登記上の所在地と異なる場合。賃貸契約書のコピーなど)

法人番号指定通知書のコピーが添付できない場合には、「国税庁法人番号公表サイト」で確認した法人情報(事業所名称、法人番号、所在地が掲載されているもの)の画面を印刷し、添付する方法が、日本年金機構のからは説明がされているようでした。

参考までに、強制適用となる個人事業所の届出の際の添付書類は以下となります。法人の場合はこれと異なる点に注意しましょう。

・事業主の世帯全員の住民票(コピー不可)
・事業所在地の確認できるもの
(事業所の所在地が登記上の所在地と異なる場合。賃貸契約書のコピーなど)

提出期限・方法

健康保険・厚生年金保険新規適用届出の提出期限は、加入が必要な事実が発生してから5日以内とされています。

提出方法としては郵送のほか、電子申請、窓口持参の方法が選択できるとされています。

健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届出

次に、健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届出も、事業所の所在地を管轄する年金事務所(郵送等の場合は事務センター)へ提出することが必要です。

1人社長であっても、会社設立して社長が被保険者として存在することになる以上、被保険者資格取得届出も同時に提出することが必要となります。

なお、当該届出への添付書類は、一定の場合にのみ必要となります。例えば、雇用後も国民健康保険組合に引き続き加入する場合や60歳以上の方が退職後すぐに再雇用された場合などで添付書類が必要となります。

健康保険被扶養者(異動)届出

こちらは被保険者の家族を健康保険の被扶養者にするときに必要となります。

健康保険被扶養者(異動)届出を、事業所の所在地を管轄する年金事務所(郵送等の場合は事務センター)へ提出することが必要です。

労災保険及び雇用保険の両方に関連する書類

前述の通り、会社設立時に従業員が1人以上いる場合では、労働保険(労災保険及び雇用保険)への加入が必要となります。該当する場合には、会社設立に際して労働保険への加入のため、労働基準監督署へ各種届出が必要となります。

なお、労働保険については、農林漁業や建設業等といった一部の特定事業は「二元適用事業」といって、労災保険と雇用保険の適用の仕方を区別するため別個に行う必要があります。

但し、一般的には、ほとんどの事業がこの二元適用事業以外の「一元適用事業」といって、労災保険と雇用保険の申告・納付等を一元的に(まとめて)行うケースが該当します。このため、一旦以下ではこの「一元適用事業」を前提に説明を行います。

労働保険 保険関係成立届

「労働保険 保険関係成立届」を、事業所の所在地を管轄する労働基準監督署に提出します。

会社を設立し、従業員を1人でも使用するようになった瞬間に、労災保険・雇用保険の保険関係が成立するため、この事実を届け出ることになります。

なお、当該届出は、頭に「労働保険」とあるように、労災保険・雇用保険の両方の保険に関連したものとなります。労災保険だけに関連するものではありません。

労働保険概算保険料申告書

「労働保険概算保険料申告書」を、事業所の所在地を管轄する労働基準監督署に提出します。

当該年度の概算の労働保険料を計算して、提出するものとなります。こちらも労働保険を構成する労災保険と雇用保険の両方の概算保険料を計算します。労災保険だけの概算ではありません。

なお、概算保険料申告書の提出と同時に概算保険料の納付が必要となりますのでご注意ください。

雇用保険加入時に追加で必要な書類

上記で労働保険関係成立届出と労働保険概算保険料申告書を労働基準監督署に提出することで、労災保険の届出としては完了し、なおかつ雇用保険の届出の大前提の部分が完了します。

その上で、雇用保険の加入の届出としては、公共職業安定所へ以下の書類の提出が必要です。

保険関係成立届と概算保険料申告書の事業主控え

上記で提出した、保険関係成立届と概算保険料申告書の2つの事業主控えを公表職業安定所(ハローワーク)に提出することが必要です。

こちらの事業主控えは労働基準監督署受理済みのものを指し、この控えの提出は以下に続けて説明する雇用保険独自の届出の前提となります。

雇用保険適用事業所設置届出

「雇用保険適用事業所設置届」を、以下の添付書類と合わせて事業所の所在地を管轄する公共職業安定所(ハローワーク)に提出します。

なお、当該届には労働保険番号を記載する欄があります。労働保険番号は上記の保険関係成立届の事業主控えに記載されたものとなりますので、そちらを参照して当該届に記載します。

添付書類(法人と個人で異なるもの)

添付書類として会社設立して従業員を1名以上雇う前提の場合、以下がまず必要です。

・登記事項証明書(原本)

法人成りする個人事業主で届出済みの場合には、個人事業主の際に以下を提出していると思いますが、そちらとは異なりますので注意が必要です。

・事業主世帯全員の住民票写し(原本)

添付書類(共通のもの)

その他、添付書類として以下のものが必要となります。

・事業所の実在を確認できる書類
  - 自社所有の場合:不動産登記記載証明書又は公共料金請求書(領収書)
  - 賃貸の場合:賃貸契約書

・事業実態を確認できる書類
  - 営業許可証、営業登録証、開設許可証、開業証明書、代理店契約書、請負契約書、
  - 事業の中身が分かる原料買付・出荷・売上伝票、
  - 事業の中身が分かる納品・請求・領収書(物とお金の出入りが確認できる物)等
  (以上の実態確認書類のうち該当あるもの全て)

雇用保険被保険者資格取得届出

雇用保険の被保険者となる条件を満たす従業員を新たに雇用する際に提出が必要となります。

新たに適用事業者となることは、新たに従業員を雇用するタイミングでもあるので、上記の雇用保険適用事業所設置届と合わせて提出することになります。

「雇用保険被保険者資格取得届」を、事業所の所在地を管轄するハローワークに提出します。

添付書類

・雇入日の確認できる書類
  - 労働者名簿、出勤簿(タイムカード)、雇入通知書
・労働条件を確認できる書類(パート・アルバイトの場合のみ)
  - 労働条件通知書、雇入通知書

※十分に確認が取れない場合、上記の書類以外が必要となることがあります。

社会保険加入手続きを怠った時のペナルティ

健康保険・厚生年金保険の加入手続きを怠った場合

健康保険や厚生年金保険のいわゆる狭義の社会保険の加入手続きを会社が怠り、年金事務所が繰り返し指導を行なっても社会保険の加入手続きを行わないような場合、立入検査が実施され、職権により過去に遡って加入手続きを実施し保険料額が決定され請求される可能性があります。

労働保険の加入手続きを怠った場合

労災保険・雇用保険のいわゆる労働保険について加入手続きを会社が怠り、労働局等から指導を受けても労働保険の加入手続きを行わないような場合、政府が職権により手続きを行い、労働保険料を決定し、過去に遡って追徴金も合わせて徴収される可能性があります。

また、労働保険料や追徴金を支払わない場合、差し押さえ等の処分が行われるとされています。

さらに、故意または重過失により労災保険の保険関係成立届を提出せず、未手続期間中に発生した事故について労災給付を行う場合、法定の範囲で、保険給付費用の全部または一部を事業主から徴収するとされています。

事業主のための雇用関係助成金については、労働保険料の滞納がある場合には受給できない可能性があるともされています。(いずれも厚生労働省QAを参照)

しっかりと定められた手続きを会社として行うことが何よりですので十分注意しましょう。

まとめ

新たに起業して会社を設立する際など、一緒に会社を立ち上げてくれる役員や従業員の方をしっかり守るという観点でも、健康保険や厚生年金保険、労働保険に正しく加入することはとても大切です。

しばらく運営されてきた個人事業を法人成り(法人化)させて会社設立する際にも、同様に、法人として社会保険へ加入する手続きが必要となります。

会社の設立にあたっては、沢山の手続きが必要となり、全てが今まで経験されてきたことのない手続きとなることで非常に負荷がかかると思います。よく専門家や提出先の機関とも相談のうえ、社会保険についても取りこぼしのないように手続きを進めていただけると幸いです。

よくある質問

一人社長の会社でも社会保険の加入が必要?

創業したばかりで社長(取締役)1人だけしかおらず、従業員がゼロの場合でも、狭義の社会保険である健康保険・厚生年金保険への加入は必要です。一方で、労災保険・雇用保険は社長1人しかいない会社で従業員がゼロであれば、加入は不要です。

詳しくは上記記事内「1人社長の法人でも加入義務対象」「労働保険の加入義務」をご覧ください。

法人設立しなければ社会保険の加入は不要?

会社設立をすると社会保険の加入が必要になるなら、個人事業主のままなら社会保険の加入は不要か?というと必ずしもそういうわけではありません。個人事業主のままでも一定の場合には社会保険の加入が事業主として必要となりますので注意が必要です。

詳しくは上記記事内「法人成りする前の個人事業主でも加入義務対象となる場合がある」をご覧ください。

労働保険の届出は一括して同時にできる?

労働保険の届出は、まずは、「労働保険 保険関係成立届」が全ての前提となります。こちらの届出の結果得られる事業主控えで労働保険番号を確認し、この番号を雇用保険適用事業所設置届に記載する必要があります。

詳しくは上記記事内「雇用保険適用事業所設置届出」をご覧ください。

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